みなさんは、ルシア・ベルリンという作家をご存知でしょうか。
ルシア・ベルリンは、レイモンド・カーヴァーなど、
多くの作家に影響を与えましたが、
生前は一部の作家に知られるだけでした。
2015年に「A Manual for Cleaning Women」が出版され、
ふたたび脚光を浴びることとなります。
日本では「掃除婦のための手引き書」が2019年に出版され、
2020年本屋大賞翻訳部門で第2位となりました。
また、第10回Twitter文学賞〔海外編〕第1位
に輝くなど、各メディアで大きな話題となっています。
メディア、SNSで大反響!
朝日、日経、読売、毎日、東京、中日、北陸中日、北海道、河北新報、信濃毎日、京都、共同、週刊文春、週刊新潮、週刊朝日、文藝春秋、GINZA、MORE、FIGAR JAPON、VOGUE JAPAN、ELLE JAPON、クロワッサン、婦人公論、ミセス、本の雑誌、POPEYE、本の雑誌、mi-mollet、現代ビジネス、クーリエ・ジャポン、本の雑誌、図書新聞、週刊読書人、文藝、すばる、小説すばる、波、本、RKBラジオ、NHKラジオ深夜便、TOKYO FM。 J-WAVE……。「ダ・ヴィンチ」の「ひとめ惚れ大賞」受賞!
「アメリカ文学界最後の秘密」
と呼ばれたルシア・ベルリン、初の邦訳作品集です。
表紙も昔の映画のようで、おしゃれですよね!
「掃除婦のための手引き書」は短編集となっており、
表題作のほかに20篇を超える作品が収められています。
読めば必ず、自分の好きな作品が見つかるはずです。
収録作品を挙げながら、
ルシア・ベルリンの魅力を見ていきましょう。
目次
非日常的で美しい「日常」
2013年にノーベル文学賞を受賞したアリス・マンローや、短篇の名手レイモンド・カーヴァー、日本で近年人気が高まっているリディア・デイヴィスなどの名だたる作家たちに影響を与えながら、寡作ゆえに一部のディープな文学ファンにのみその名を知られてきた作家、ルシア・ベルリン。
2004年の逝去から10年を経て、2015年、短篇集A Manual for Cleaning Womenが出版されると同書はたちまちベストセラーとなり、The New York Times Book Reviewはじめ、その年の多くのメディアのベスト本リストに選ばれました。
本書は、同書から岸本佐知子がよりすぐった24篇を収録。
この一冊を読めば、世界が「再発見」した、この注目の作家の世界がわかります!このむきだしの言葉、魂から直接つかみとってきたような言葉を、
とにかく読んで、揺さぶられてください
――岸本佐知子「訳者あとがき」より彼女の小説を読んでいると、自分がそれまで何をしていたかも、
どこにいるかも、自分が誰かさえ忘れてしまう。
――リディア・デイヴィスによる原書序文「物語こそがすべて」(本書収録)より毎日バスに揺られて他人の家に通いながら、ひたすら死ぬことを思う掃除婦(「掃除婦のための手引き書」)。
夜明けにふるえる足で酒を買いに行くアルコール依存症のシングルマザー(「どうにもならない」)。
刑務所で囚人たちに創作を教える女性教師(「さあ土曜日だ」)。……
自身の人生に根ざして紡ぎ出された奇跡の文学。
ルシア・ベルリンは、
自分の人生に根ざした小説を書くことで知られます。
生涯で3度の離婚と結婚を経験し、
4人の息子を育てました。
さらには、高校教師、掃除婦、電話交換手、看護師など、
さまざまな職を転々としたのです。
「掃除婦のための手引き書」を読んでいると、
とても1人だけの人生に根ざしたとは思えないほど、
さまざまな日常が描かれます。
たとえば、表題作の主人公は掃除婦です。
「バスに乗って依頼人の家を訪ねる話」とだけ聞くと、
「面白いの?」と思われるかもしれません。
しかし、バス停から見える風景、
バスで会うメイド仲間とのやりとりなど、
主人公たちの日常は、
私たちからすれば非日常にも思えるのです。
クリスマスのバスは最悪だ。ラリったヒッピー娘が叫んだ、
「降ろせ、このくそバス!」。
「次の停留所まで待ちな!」運転手がどなり返した。
(講談社「掃除婦のための手引き書」岸本佐知子訳)
日本で暮らしていると、
このような光景を見ることはないのではないでしょうか。
登場人物たちの息づかい
ルシア・ベルリンの小説は、
登場人物たちの息づかいが手に取るように感じられます。
人間を、ときに皮肉まじりに、ときにユーモアを交えて描きます。
「ドクターH.A.モイニハン」は、
主人公の少女と歯医者である祖父とのエピソードです。
祖父は偏屈な嫌われ者ですが、ある日、
少女を作業部屋に来るようにと言います。
そこには、祖父が作った自分自身の入れ歯がありました。
入れ歯をはめるため、
少女は祖父の歯を抜く手伝いをするよう言い渡されます。
あらすじだけを見ると「どんな陰惨な小説なのだろう」
と思ってしまいますが、筆致は軽妙で、
明るささえ感じるのが不思議です。
歯を抜いたあと、
祖父がリプトンのティーバッグを口に詰めこむ場面があります。
おそろしい化け物、黄色と黒のリプトンのタグを
パレードの飾りみたいにぶらさげた生きたティーポット。
(同出典)
そんな祖父を見て、主人公は笑います。
おかしくて笑うというよりは、笑うしかない、
といった感じでしょうか。
ルシア・ベルリンの描く人々は、
それぞれに生き生きしています。
美しい比喩をはじめとした文章表現
非日常的な日常や、登場人物たちのたたずまいが
魅力的に描かれている理由のひとつに、
ルシア・ベルリンの独特な文章があります。
短い作品の中に、
あっと驚くような比喩や表現を
いくつも見つけることができるのです。
「バラ色の人生」という作品は、
ティーンエイジャーの少女・ゲルダとクレアの
ひと夏を描いています。
ふたりの笑い声について書かれたところ
を見てみましょう。
ゲルダの笑い声は短く吠えるようなドイツ風の笑いだ。
クレアの笑いは甲高いさざめきのよう。
(同出典)
笑い声を描写しているだけなのに、
ふたりの少女の表情や顔つき、
性格まで見えてくる気がしませんか?
本作を読んでいると、
このような文章に頻繁に出会うことができます。
「掃除婦のための手引き書」は
翻訳家の岸本佐知子さんによって訳されています。
とても自然で美しい文章なので、
ルシア・ベルリンの文体や比喩の美しさを存分に楽しめます。
翻訳小説が苦手な方にも
おすすめしたい作品です。