今回ご紹介する一冊は、
荻原 浩(おぎわら ひろし) 著
『海馬の尻尾』です。
あなたは、自分のこころ、
精神、そして脳について
考えたことはありますか。
主人公でアル中、
反社会組織にいる
頼也(らいや)を中心に、
脳と人の良心と、
さまざまな組織が
組み合わさって繰り広げられる
エンターテイメント性の高い本です。
もちろん現在わかっている
脳科学の事実についても
書かれています。
タイトルの
『海馬の尻尾』というのは、
脳にある「扁桃体」という
部分のことです。
さて、その「脳」のことについて、
どのようにこの1冊について
語られているのか、
ワクワクしながら読める本です。
悪であった頼也は、
とあることから、
大きな精神病院に入院
させられてしまうのですが、
どのように人の心を
取り戻していくのでしょうか。
頼也は善良な人間になること
ができるのか、
医者たちの「治療」の目的とは?
その病院に入院している人たちは
どのような病気で入院しているのか、
病院の謎めいた目的など、
どんどん読み進めて
いきたくなってしまうこと
間違いなしです!
目次
荻原浩『海馬の尻尾』 恐怖心の欠けた登場人物たち
『神様からひと言』の荻原浩が描くハードボイルド!
『明日の記憶』、そして直木賞獲得後に再び「脳科学」に挑む!二度目の原発事故でどん底に落ちた社会――。三年前に懲役を終えたばかりの及川頼也は、若頭に「アル中を治せ」と命じられ、とある大学病院の精神科を訪れる。検査によると、及川の脳には「良心がない」のだという。医者らを拒絶する及川だが、ウィリアムズ症候群の少女が懐くようになり……。
人間の脳は変われるのか。ハードボイルドの筆致で描く、脳科学サスペンス!
この本には、頼也をはじめ、
さまざまな理由で
恐怖心の欠けた人たちや、
どこか健常な人とは違う
雰囲気の入院患者などが
登場してきます。
頼也は扁桃体が活発でないことから、
人を痛めつけることや
良心が欠けていると
言われるのですが、
治療を続け、
さまざまな人たちと関わることで、
徐々に良くなっていくように見えます。
頼也のような悪さをする人間でなく、
梨帆という女の子は
ウィリアムズ症候群で、
危険を感じなかったり、
堂上のように車でスピードを
出しすぎても、
どこが悪いのか気づかない、
という人々が登場しますが、
小説で読むと、
個性的な登場人物のように
感じるかもしれません。
普段から脳の働きについて
意識して考えたことは
あまりないと思うのですが、
この本ではすこし脳科学に
触れられているようです。
興味があるあなたは、
とても感心してしまう本
かもしれませんよ。
荻原浩『海馬の尻尾』 エンターテイメント性の高い1冊
『海馬の尻尾』では、
脳科学や事実は含まれている
こともありますが、
すこし脚色されているおかげなのか、
ただの堅苦しい本では
終わらないことが魅力です。
登場人物の個性の豊かさや、
梨帆と頼也の心の交流、
桐嶋や比企の裏にある謎など、
最初から最後まで
楽しんで読める本です。
また、精神病棟については
やや脚色されているところもありますが、
かなりリアルに再現されている
ところもあり、
精神病など、
私たちが気づかないところに
理解を深めることもできます。
自分が精神病棟にいたら、
どんな気持ちになるか、
普段は想像もつかないですよね。
また、頼也の普段の
めちゃくちゃな生活や性格も、
どこか人間臭さがあって、
共感できるかもしれません。
読後、この本に出てくる
登場人物の行く末を
想像したりするのも
面白いと思いますよ。
荻原浩『海馬の尻尾』 人は「治療」されることが正解なのか
人には必ず弱点と言っていいほど、
弱い部分があります。
コントロールしきれない部分と
言ってもいいでしょう。
頼也は、脳科学で言っても、
倫理的に言っても、
人として異常なところがあります。
ですが、桐嶋と比企によって、
治療され、徐々に人の心を
取り戻しつつも、
完璧でないところがあるようです。
人間は100%善良だったら、
問題ないのでしょうか。
間違いを犯さない人間が
正しいとすれば、
いま生きている私たちの中で、
正しい人はどれくらい
いるのでしょう。
頼也だけでなく、
高田や根本のように、
感情に任せて病棟内で
暴れてしまった人々もいますが、
彼らは感情が爆発しただけで、
絶対悪ではないと思っています。
いまの精神科の治療法や
脳科学を否定するわけでは
ありませんが、
人間の悪い部分をすべて
「治療」ということで改善したら、
人間は人間らしく
生きていけるのでしょうか。
頼也は、人の心を取り戻せるのか、
という点に着目しても面白いですが、
人の心、治療、
そういったことに着目して
読むと面白いかもしれません。
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