今回ご紹介する一冊は、
池井戸 潤 著
『アキラとあきら』です。
著者の原作は
そのほとんどが
映画化・ドラマ化
されていますが、
この『アキラとあきら』も
御多分に漏れず
wowowで連続ドラマ化が
されました。
「問題小説」という
月刊小説誌に
2006年から
2009年まで
掲載されていたのですが、
文庫版が出たのがなんと
2017年5月。
池井戸ファンの間では、
幻の作品になりかけて
いたそうですね。
そしてページ数も
多くかなりの重厚感。
文庫本では705ページを使い、
2人の主人公アキラとあきら
の感動巨編を描いています。
時代背景は1970年代から
2000年代前半の30年間。
この30年は、
日本経済にとって
激動の時代ですね。
まさに経済小説の舞台には
もってこいです。
目次
池井戸潤『アキラとあきら』 山崎瑛と階堂彬
ふたりの運命が交差した時、人生を賭した戦いが始まる──。
小さな町工場の息子・山崎瑛。そして、日本を代表する大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬。同じ社長の息子同士でも、家柄も育ちもまったく違うふたりは、互いに宿命を背負い、運命に抗って生きてきた。強い信念で道を切り拓いてきた瑛と、自らの意志で人生を選択してきた彬。それぞれの数奇な運命が出会うとき、逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭した戦いが始まった──。
山崎瑛(やまざきあきら)と
階堂彬(かいどうあきら)。
この2人を中心に、
物語は進みます。
2人とも父親が経営者
という共通点がありましたが、
その境遇は180°と
言ってもいい程真逆でした。
瑛の方は工場を経営する
技術者だったのですが、
その工場経営が立ちいかなくなり、
家族で夜逃げをする
という状況に追い込まれます。
対する彬は、
東海グループを経営する
代々金持ちの家系に
生まれた子供です。
何不自由なく育ち、
子供のころから運転手付きの車
に乗っていました。
しかし彬も、瑛と同様に
大人の問題に巻き込まれる
境遇にいました。
東海グループを率いていた
祖父の死をきっかけに、
相続に関して親・親戚が
争うのを見てしまうのです。
ただ、この2人には、
「なぜこんな問題が起こるのか?」
という事を考えられる頭
がありました。
「なんで俺だけ」「親が悪い」
「社会が悪い」などど
子供なら責任転嫁を
してしまいそうなものですが、
真摯に現在の状況を俯瞰し、
どうすれば現状を
打開できるのかを
模索できる姿勢を
持っているのです。
そのヒントを、
瑛は同級生の父親から。
彬は、親が経営する会社の
担当銀行員から得ます。
そして、2人は銀行員に。
二人とも入社研修から
一目置かれる超優秀な
バンカーでした。
物語のメインは、
瑛と彬が産業中央銀行に
入社するところからです。
池井戸潤『アキラとあきら』 高度経済成長とバブル崩壊
2人が銀行に入社した時期は、
丁度バブルの頃でしょう。
丁度半沢直樹が入行した頃ですね。
その当時の実際の銀行の空気が
どうだったかは存じませんが、
かなり危険な金融商品が
出回っていたのではと思います。
銀行員も含め、
人は皆株・土地の価格は
上昇を信じて疑わなかった。
一言で言えば、
イケイケドンドンの時代です。
そして、彬はその空気と
銀行内のしがらみに
違和感を感じます。
上述の、自分を銀行に
導いてくれた先輩銀行員も、
今の状況が長く続かないとは
懸念を示していました。
しかし、その当時は
そう考える人の方が
少なかったのでしょう。
株・土地が無制限で
上昇していくという物語を
信じた彬の叔父達
(東海グループ経営者)は、
ロイヤルマリン下田という
リゾート経営に乗り出します。
この叔父2人がその時の
空気や気分で経営方針を決める
ダメ経営者。
読んでいて、
「いい加減彬の言う事聞け!」
と思うのは読んで頂ければ
共感できると思います。
何とかなる、
誰かが助けてくれると
思っている。
過去にスーパーマーケットの
経営にも手を出していましたが、
失敗をして撤退。
そんな彼らに、
リゾート経営が出来るわけないと
彬は思っていました。
事実、叔父たちが頼んだ
リゾート経営コンサルタントも
何の役にも立たず、
経営は立ち行かなくなります。
そこで、白羽の矢が立ったのが、
階堂彬でした。
父・一磨の死や、
叔父達の部下の説得もあり、
彬は東海郵船の経営者として
東海グループに
入ってくるのです。
池井戸潤『アキラとあきら』 見えてくるのは資本主義の本質
この東海郵船の
メインバンクは産業中央銀行。
なんと担当者は山崎瑛でした。
ここにアキラとあきらの
コンビ誕生です。
共にロイヤルマリン下田を救うため、
瑛と彬は奔走します。
結果はやはりハッピーエンドで
ロイヤルマリン下田は
救われるのですが、
それがいかに為されたのかは、
是非小説を読んでみてください。
そして何と言っても、
この小説『アキラとあきら』
の神髄は、
変わらぬものは淘汰される
という事です。
瑛の実家の工場の倒産。
瑛が住んでいた
街の商店街の衰退。
そしてロイヤルマリン下田。
全て現状に甘んじ、
創意工夫を怠り、
今までうまくいったんだから
これからもうまくいくという
甘い認識が破滅を導きました。
まさに資本主義。
イノベーションがなければ
淘汰される世界です。
バブル崩壊により倒産を
余儀なくされた企業は、
まさにその淘汰される側
だったのでしょう。
その資本主義の宿命の中で、
瑛と彬は抗い、
創意工夫を以て生き残りの道を
探していきます。
瑛は、幼少時代に父の工場が
破綻した事で、
会社は従業員とその家族の
生活・将来を守っていること
を知りました。
融資とは、会社にカネを
貸すのではなく、
人に貸すが彼のモットーです。
彬は、代々経営者としての
階堂家の宿命を
背負ってきました。
その宿命、言い換えれば
「しがらみ」を捨てて
ロイヤルマリン下田の
救済策を打ち出します。
どちらの「あきら」が欠けても、
ロイヤルマリン下田
ひいては東海グループが
救われることは
なかったでしょう。
主人公は2人。
瑛と彬。
一冊の小説で2倍楽しめる
経済巨編です。
是非ご一読を。
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