今回ご紹介する一冊は、
辻村深月 著
『ツナグ 想い人の心得』
です。
ツナグ。
それは死者と生者を繋ぐ
窓口のようなものです。
もしツナグと連絡を
取ることができれば、
あなたは死者と一晩だけ
共に過ごすことができるのです。
この本は、そんなツナグを
中心とした5つの短編が
収録された短編集となります。
憧れた歴史上の人物に会いたい、
亡くなってしまった娘
に会いたい、
父に会いたい、
想い人に会いたい。
様々な思いを抱きながら、
様々な繋がりの中で、
苦しさや幸せを覚えていく、
温かい物語です。
目次
辻村深月『ツナグ 想い人の心得』 歴史研究の心得
もう一度だけ亡くなったあの人に会えるとしたら、あなたは何を伝えますか? 死者との再会を叶える使者「ツナグ」。長年務めを果たした最愛の祖母から歩美は使者としての役目を引き継いだ。7年経ち、社会人になった彼の元を訪れる依頼者たちは、誰にも言えぬ想いを胸に秘めていた――。後悔を抱えて生きる人々の心を繫ぐ、使者の物語。シリーズ累計100万部の大ベストセラー、9年ぶりの待望の続刊!
この話は特に一風変わった
話になっています。
というのも、
この話の主人公は、
なんとツナグを使って
歴史上の人物と
会おうとするからです。
主人公は若い頃から
一人の 歴史上の人物に
強く心惹かれます。
そして、なんとその憧れは
弱まることなく、
そのまま主人公は
年を重ねていくのです。
そして、その人の縁のある地
で教職に就きます。
生徒に勉強を教える傍ら、
憧れの人について
研究を深めていきます。
そんな彼がツナグの存在を知り、
そして憧れのその人に会う
という物語です。
なんとも怖い話だと
思いませんか?
自分の人生の全てを捧げる程に
憧れた人と会うのです。
しかも、その人には
会ったことはもちろん、
実際に見たこともないのです。
もし思い描いていたような人
ではなかったとしたら。
自分のこれまでの
人生なんだったのか、
そう思ってしまいそう
ではないですか?
しかし、この話は極端な例ですが、
人が人に抱く憧れは
たいがい的外れだと思います。
私の好きな漫画の
キャラクターも、
憧れは理解から
最も遠い感情だと仰っていました笑
あのシーンの臨場感は
今でも大好きです笑
もし、誰かになんらかの形で
憧れや尊敬を抱いて、
それが裏切られたとしたら、
何が悪かったのでしょう?
ケースバイケースだとは
思いますが、
私は裏切られた側の認識が
誤っていたからだと思います。
つまり、
「こんな人だとは思わなかった」
と思うのではなく
「こういう人だったんだな」
と思えば、
それは憧れた過去の自分を
否定することなく、
ただ知らなかった
その人の一面を
知っただけになります。
憧れたり信じたりすることは
素敵だと思います。
だからその気持ちを抱えたまま、
実際の、等身大のその人を
見据える、
いわば大人になれるようにした方が、
きっとみんな幸せ
なんじゃないかと、
この話を読んで思いました。
辻村深月『ツナグ 想い人の心得』 想い人の心得
この短編集のトリを飾ると共に、
サブタイトルにも
なっている一作です。
私なりに、
この話の最も重要なポイントは、
タイトルにもある
『想い人』という言葉にある
と感じました。
というのも、
前作にもツナグを使って
想い人に会う人は居られましたし、
そもそも死者は生者と
一度しか会えないため、
会うとしたら家族か恋人だというのは、
いわば普通のことです。
その普通の物語を面白く書く
なんてめちゃくちゃ難しいこと
だと思いませんか?
そして、辻村深月さんが
その普通の話をどんな風に彩るのか、
気になりませんか?
少しでもそう思って
くださったなら、
ぜひ読んでみることを
おすすめします。
きっと読んで良かったと
思えるはずです。
この話の主人公は、
両思いではありません。
少し変わった関係では
ありますが、
片想いのようなものです。
死者の女性は別の男性を想っており、
だから会いに来てくれた
主人公に対しても
「あの人は来てくれないのね」
などの言葉をかけてしまいます。
しかし、主人公は動じません。
真っ直ぐに彼女を見つめ、
近況報告や伝えるべきことを
しっかりと話していきます。
彼は受け入れているのだと
思いました。
自分以外の人を愛している所
も含めて、
自分は彼女を愛している事を
受け入れているのだと
そう感じました。
厳しい現実も見据えること
ができるからこそ、
彼は彼女に素敵な贈り物を
贈る事ができました。
等身大の彼女を
愛したらからこそ、
彼女が心から喜びものを
贈れたんだなと思いました。
人を想う事の冷酷さと幸せが
詰め込まれた、素敵な物語です。
辻村深月『ツナグ 想い人の心得』 ツナグ
前作の『ツナグ』において、
死者と会おうとするのは
生者のエゴイズムではないか
という話がありました。
自分の中のもやもやと
した気持ちを、
原因となっている死者に
会ってスッキリさせたい。
そんな行為をしてよいのかと。
それは墓荒らしのようなもの
ではないかと。
今作においても、
そのような葛藤は
見受けられました。
だからこそ、
前作には無かった展開をみせて、
こんな風な道を選んでも
良いのだなと
思わせてくれる話もありました。
私がそんな10作のツナグの短編
を読んで学んだことは、
人との繋がりは幸せだと
いうことです。
生者はツナグの前で葛藤します。
自分のエゴイズムで
一度しかない死者の権利を
使わせてしまって良いのか。
自分のせいで死者を
傷つけてしまわないか。
葛藤する気持ちの中にある
死者への愛は、
ちゃんと伝わってくれるのか。
悩んで、不安と恐怖を抱きます。
それでも彼らは死者と会います。
そして二人の間には、
その二人にしか
見つけることのできない
素敵なものが生まれていきます。
それが、人が人と繋がる理由で、
人が人から与えてもらえる幸せ
というものなのかと、
私は思いました。
ぜひあなたも読んでみてください。
きっと今よりも人との繋がりを
大切にして、
今よりもたくさんの幸せを
受けとることができるように
なると思います。
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