今回ご紹介する一冊は、
村上 春樹 著
『一人称単数』です。
『一人称単数』は、
『女のいない男たち』以来
6年ぶりの村上春樹さんの
短編集です。
構成は、
和歌について書かれている
「石まくら」、
理不尽な運命と不思議な老人
に出会う「クリーム」、
伝説のジャズ奏者についての
記事を書いた男の話の
「チャーリー・パーカー・
プレイズ・ボサノヴァ」、
ヤクルトスワローズを
応援する村上春樹さんの
心情を書いた
「ヤクルトスワローズ詩集」、
ビートルズにまつわる思い出の
「ウィズ・ザ・ビートルズ」、
醜い女との思い出話の「謝肉祭」、
喋る猿にまつわる不思議な話の
「品川猿の告白」、
本の題名でもある書き下ろしの
「一人称単数」です。
どの話も独特の世界観が
展開されており、
非常に面白く、
興味深い短編が多かった
『一人称単数』の書評を
していきます。
目次
村上春樹『一人称単数』独特な村上春樹の作風は健在
6年ぶりに放たれる、8作からなる短篇小説集
「一人称単数」とは世界のひとかけらを切り取る「単眼」のことだ。しかしその切り口が増えていけばいくほど、「単眼」はきりなく絡み合った「複眼」となる。そしてそこでは、私はもう私でなくなり、僕はもう僕でなくなっていく。そして、そう、あなたはもうあなたでなくなっていく。そこで何が起こり、何が起こらなかったのか? 「一人称単数」の世界にようこそ。
最初の短編小説の
「石まくら」の1ページ目を
読んだ時点で、
村上春樹さんの作品だと
強く感じるほど、
村上春樹の独特の作風が
感じられました。
独特な比喩表現と、
淡々とした起伏のない
主人公の語り口が、
まさに村上春樹作品だと
感じました。
その他の短編でも
村上春樹作品だと感じるとき
は多く、
主人公に簡単に体を許す女性や、
死を感じる様な不思議な描写、
古典ジャズについての
詳しい描写があり、
村上春樹作品を読んでいる
という
実感を強めるもの
になりました。
村上春樹さんの作風が好きで、
なかなか発売されない
村上春樹の作品を久しぶりに
味わってみたいという方は、
読んでみて後悔はしない
と思います。
村上春樹『一人称単数』ファンタジーの様な不思議な世界観
過去の村上春樹作品を
読まれた方は、
様々な長編小説で
ファンタジーのような不思議な
要素が登場することは
分かっていると思います。
この『一人称単数』でも
ファンタジーのような不思議な
要素が多く登場します。
人の言葉を喋ることができ、
人の名前を盗むことができる猿、
あるはずのない伝説のジャズ奏者
の最新レコードが見つかった
レコード店、
発作で苦しんでいる少年の前に
突然現れ、
謎のメッセージを残して
去っていく老人などが登場します。
この様なファンタジーの要素が
出てくる話を読んでいる時、
予想外しない様な方向から
ファンタジーの要素が
現れてくるので、
興味を持ち、いつも物語に
集中していく感覚があります。
ファンタジーの要素がある小説は、
ごちゃごちゃしてきて
読みにくいことも
よくありますが、
村上春樹さんの作品は
ゆっくりと物語が
進んでいくので、
とても読みやすかったです。
村上春樹『一人称単数』書き下ろしの「一人称単数」でのメッセージは?
『一人称単数』は、
何をしても集中することが
できない男性が、
スーツを着て見知らぬバー
に行き、
ミステリー小説を
読んでいるときに、
突然女性から酷く罵られ、
バーの外に出ればそこは
蛇の世界だったという話です。
この短編小説の主人公は
村上春樹さんだろうなと
思いながら、読みました。
この『一人称単数』を通じて、
一見何の話かよく分からず、
村上春樹さんが読者に何かを
伝えたいのかと感じました。
この作品では、
主人公の男性は
身に覚えのない罪を着せられ、
女性にひどく罵られます。
これは、自分が何気なく行った
行為や無意識に行った行為が、
巡り巡って最悪の結末に
なってしまい、
蛇の世界に迷い込んでしまった
という描写の様に、
その行為が帰ってきて
悪夢の様な状況に
陥ってしまうこと
を表現しているのではないか
と感じました。
これは、村上春樹さんが
過去に行った行為が自分に
返ってきたことに対しての
自分の感情かもしれませんし、
現代社会で何気なく発信した
内容が誹謗中傷などによって
最悪の結末になるということへの
風刺の様なもの
かもしれません。
この『一人称単数』の
受け取り方は
人によって様々だと思います。
よく分かんないと諦めずに、
どの様なことをここでは
伝えたいのかなと、
立ち止まって
考えてみれば、
素敵な発見があるかも
しれませんね。
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