今回ご紹介する一冊は、
筒井康隆 著
『ロートレック荘事件』
です。
『ロートレック荘事件』は
中編本格推理小説です。
筒井康隆は小松左京、星新一
と並んで「SF御三家」と
呼ばれることもあるように、
SF界の巨匠と称される人物です。
しかし、本作のような推理小説や
純文学作品など、
幅広い作品を実験的に残している
ことでも知られています。
また、筒井康隆という名前を
聞いたことが無くても、
映画化もされた「時をかける少女」
という代表作は
あまりに有名ですね。
本書には題名にもあるように、
フランスの画家
トゥールーズ・ロートレックの作品
がいくつか挿入されており、
その内容も作者の趣向の
凝らされたものとなっています。
筒井のSF小説は
あらかた読んだが、
彼の推理小説も読んでみたい
という方はもちろん、
一風変わった本格推理小説が
楽しみたいという方にも
おすすめできる一作です。
目次
筒井康隆『ロートレック荘事件』のあらすじ
夏の終わり、郊外の瀟洒な洋館に将来を約束された青年たちと美貌の娘たちが集まった。ロートレックの作品に彩られ、優雅な数日間のバカンスが始まったかに見えたのだが……。二発の銃声が惨劇の始まりを告げた。一人また一人、美女が殺される。邸内の人間の犯行か? アリバイを持たぬ者は? 動機は? 推理小説史上初のトリックが読者を迷宮へと誘う。前人未到のメタ・ミステリー。
浜口重樹は8歳のころ、
事故で滑り台から落下し、
下半身が成長しなくなるという
障害を抱えます。
それ以来、けがを負わせた
従兄弟が付きっきりで
彼の世話をしていたのでした。
そして28歳の夏、
彼らはかつて幼少期を過ごし
今は木内文麿という実業家
の持ち物になっている、
ロートレック荘を
友人の工藤忠明と
共に訪れました。
木内はロートレックの
作品収集を趣味としており、
それがロートレック荘の
名前の由来
となっているのです。
その別荘には彼らと
木内夫妻の他に、
夫妻の娘典子とその友人である
牧野寛子と立原絵里、
そしてその母親立原五月が
滞在していました。
彼らの滞在は
ロートレックの絵の鑑賞や、
浜口の意中の娘は誰かなどという
他愛もない会話、
そして錏(しころ)
という木内の部下
の訪問などにより
何事もなく過ぎていきます。
しかしあくる朝は、
二発の銃声と
牧野寛子の死体の発見という、
恐ろしい事件と
共に訪れるのです。
事件の調査のために警察が
ロートレック荘を訪れますが、
なんとそんな警察を
あざ笑うかのように、
木内典子さらには
立原絵里までが殺害されます。
犯人はいったい誰なのか、
三人もの若い女性を
殺す動機とは何なのか。
練りこまれた
緻密なトリックが
私たちを驚かせるだけでなく、
人間の内面を見事に
描ききっています。
筒井康隆『ロートレック荘事件』の魅力
この作品の魅力は
何と言っても
高度に洗練された
トリックでしょう。
作中ではフーダニット(誰がやったのか?)
とハウダニット(どうやったのか?)、
そしてホワイダニット(どうしてやったのか?)
という推理小説の三大要素が
すべて登場します。
真犯人による独白パートが
トリックの種明かし編になって
いるのですが、
それら三つの謎が
明快に解決されるのです。
そして読者は何の違和感もなく
騙されていたことに
気づかされます。
このトリックを見破れる方は、
かなりのミステリ上級者
ではないでしょうか。
SF小説作家が書いた
推理小説なんて
と舐めてかかったら、
痛い目にあうと断言できます。
他にこの作品の魅力と
して挙げられるのが、
人物の感情や考えといった
内面の描写です。
誰もが抱く恋心、
さらには特殊な状況に
置かれた人が抱く感情。
そういった人間の内面が、
繊細かつ大胆に描かれており、
さすがは純文学も手掛ける作家
と舌を巻かずにはいられません。
筒井康隆『ロートレック荘事件』に凝らされた趣向
『ミステリ・ベスト201日本編』で
この作品は、吉野仁によって
「作者ならではの趣向と
娯楽性に満ちた
本格ミステリの傑作」
と称されています。
ロートレックの作品がカラーで
挿入されており、
まるで実際にロートレック荘を
訪れたかのように錯覚できるのは、
この作品に凝らされた
趣向の一つと言えるでしょう。
さらに文章の端々から、
豊富な知識を持ってして
書かれたことがうかがえますし、
その叙述にも
作者の器量が光ります。
筒井と言えば、
『旅のラゴス』など
娯楽小説とも純文学とも
つかないような、
ストーリー性がありながら
メッセージ性も
あるような小説が特徴
だと思います。
この作品でも、
筒井康隆という
異才のいいところ
がしっかりと表現
されていながら、
本格推理小説として
かなりのクオリティが
実現されています。
それでいて長くない小説なので、
筒井康隆や推理小説が
好きな方だけでなく、
読書もあまりしない
という方にさえ
おすすめできる一作です。
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