今回ご紹介する一冊は、
横山秀夫 著
『ノースライト』です。
長編ミステリー小説です。
横山秀夫は他にドラマ化や
映画化もされた
推理小説『64』や、
直木賞候補ともなった
『半落ち』などの代表作
がある人気作家なので、
ご存じの方も多いのでは
ないでしょうか。
しかし、とある審査員との
軋轢から
「直木賞との決別」を
宣言していることも
知られています。
この『ノースライト』も
週刊文春ミステリーベスト10で
1位を獲得するなど、
大人気を博している作品です。
横山氏はさきほど紹介した
『64』のように、
ミステリーの中でも
警察小説を得意とする
小説家ですが、
「建築家ミステリ」とも称される
この作品では、
事件を探偵ではなく
一人の建築家が
解決していきます。
一般的な推理小説とは
一線を画したこの作品ですが、
だからこそ普段推理小説を
読んでいても味わうことの
できない独特の面白さ
があるのです。
そしてもう一つこの作品の特徴
と言えるのが、
全体を通して描かれる家族愛です。
読了後には思わず涙せず
にはいられない、
感動的な結末が待っていますよ。
目次
横山秀夫『ノースライト』 あらすじ
横山ミステリー史上最も美しい謎。
熱く込み上げる感動。一家はどこへ消えたのか?
空虚な家になぜ一脚の椅子だけが残されていたのか?
『64』から六年。待望の長編ミステリー。一級建築士の青瀬は、信濃追分へ車を走らせていた。望まれて設計した新築の家。施主の一家も、新しい自宅を前に、あんなに喜んでいたのに……。Y邸は無人だった。そこに越してきたはずの家族の姿はなく、電話機以外に家具もない。ただ一つ、浅間山を望むように置かれた古ぼけた「タウトの椅子」を除けば……。このY邸でいったい何が起きたのか?
「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門 第1位
「このミステリーがすごい! 2020年版」国内編(宝島社) 第2位
「ミステリが読みたい! 2020年版」国内篇 第2位
一級建築士の青瀬稔は
吉野夫妻からの依頼によって、
長野県軽井沢の信濃追分に
建てる家を設計します。
かつて青瀬が設計した家を見て
ほれ込んだ吉野は、
青瀬に対し
「すべてあなたにおまかせします」
と言うほど信頼を
おいていました。
そうしてできた家は、
とある建築関連書で
取り上げられるほど
高く評価され、
青瀬自身満足のいくものでした。
しかしある日青瀬は、
その新築の家に誰も住んでは
いないようだったとの話を聞き、
不思議に思います。
実際に自らも足を運んで
確認してみると、
誰もいない上に
住んでいるような痕跡はなく、
空き巣に荒らされた跡が
あるだけでした。
吉野夫妻は完成した家をみて
感激していただけに、
数か月たった今も
入居していないという事実
は到底信じられないこと
だったのです。
こうして青瀬の、
吉野一家を探す調査が
始まります。
殺人を発端としない
一風変わった小説ですが、
真相にたどり着いたとき
には読者は感動の中に
いるはずです。
横山秀夫『ノースライト』 ノースライトのストーリー
推理小説を書く上で
重視すべきとして有名な
「ヴァン・ダインの二十則」には、
推理小説の中では
必ず殺人が起こらなければ
ならないとされています。
そうでないと読者の興味を
持続できないという理由からです。
しかし、本作で起こる事件は
殺人ではなく一家の失踪であり、
とても挑戦的な作品
ということができるでしょう。
結論を述べれば、
その横山の今回の挑戦は
まさしく大成功でした。
殺人が起こらなくて
飽きるどころか、
ページを追うごとに
深まっていく謎に
引きつけられることは
間違いないですし、
そして何より
殺人でないからこそ
描けるものがあります。
さきほど紹介した
『半落ち』では
直木賞の選考委員たちにさえ
議論を巻き起こした横山は、
今回も私たちを型破りな手法
で楽しませてくれるのです。
そして真相にたどりついた時、
あなたはそのあまりにも
美しい結末に、
涙を流していることでしょう。
横山秀夫『ノースライト』 が描く家族愛
この作品の一つのテーマ
ともいうべきもの、
それが「家族愛」です。
例えば主人公である青瀬には、
離婚した元妻と
中学生になる娘がいます。
物語が始まった当初、
青瀬と彼らの関係は
決して良好なものでは
ありませんでした。
しかし、事件を通して
青瀬の心境が変化していく
のと相まって、
電話でしか話さない元妻や
月に一度しか会えない娘
との関係性も少しずつ
変わっていくのです。
彼らの心境の変化の描き方、
微妙なバランスを保った
コミュニケーションも、
見事に描かれています。
ただ、今作に登場するのは
青瀬一家だけではありません。
吉野一家や、
青瀬の上司である岡島
の家族などなど、
様々な家族がさまざまな形
で登場します。
読んでいて、
私たちも自分自身の家族
というものを考えさせられる
だけでなく、
その愛は私たちを魅了します。
一風変わった推理小説を
味わいたい方だけでなく、
家族の大きな愛を感じたい方
にもおすすめできる名作です。
この記事を読んだ方はこちらもオススメです↓