今回ご紹介する一冊は、
青羽 悠(あおば ゆう) 著
『凪に溺れる』です。
現役の京大生でもある青羽さんは、
まだ20才という若さです。
2016年に
『星に願いを、そして手を。』
で作家デビュー。
小説すばる新人賞を
史上最年少で受賞されています。
本作『凪に溺れる』は、
王様のブランチの
ブックコーナーで紹介されて、
大きな話題となりました。
発売からすぐに重版され、
大変な人気となっています。
とても読みやすい文章の中に、
「本当に20才?」
と聞きたくなるような、
大人びた表現が
ときどき姿を現します。
人間観察力が高い作者により、
登場人物一人一人が、
しっかりと意思を
持たされていると感じました。
力強さと儚さの両方の魅力
をもった作品は、
とても爽やかな胸の痛みを
残してくれます。
目次
青羽悠『凪に溺れる』 謎のアーティスト・霧野十太
自分にも劇的な未来が待っている。
そう信じられなくなったのは、いつからだろう――。16歳にして小説すばる新人賞史上最年少受賞を果たした鮮烈なデビュー作、『星に願いを、そして手を。』から三年。
現役京大生となった若き才能が、〝青春の難題″に立ち向かう!
読了後、静かな感動と勇気が押し寄せる、「救い」の物語。【あらすじ】
仕事も恋愛も惰性の日々を過ごしているOLの遥。ある日遥は、無名のアーティストの曲がYouTube上で「バズって」いるのを見つける。その曲にとてつもない引力を感じた遥だったが、数日後、そのアーティストの公式サイトで、「2018年10月23日、Vo霧野十太逝去。27歳」の文字を目にする。なぜ1年も前に亡くなった無名のアーティストの曲が、今更注目を浴びているのか。霧野十太とは何者なのか――。一人の天才音楽青年と、彼が作った「ある曲」を軸に、夢と理想、そして現実とのはざまで藻掻く6人の人生を描き切った、著者渾身の青春小説。
物語は、
無名のアーティスト・
霧野十太(きりのじゅった)
を中心に、
さまざまな人の視点から
描かれていきます。
素晴らしい才能と、
人を惹きつける魅力を持つ十太。
彼が生み出した曲『凪に溺れる』は、
聴くものを、
どこか遠くへと連れて
行く力があります。
誰もが、夢を見て
目指していたはずの、
遠い海の向こうの世界。
日々の暮らしの中で
あきらめていた夢を、
『凪に溺れる』が蘇らせていく。
十太は、音楽で暮らして
いけるかなんて、
きっと考えたことがない。
音楽を続けていくということが、
十太が生きることそのものなのです。
十太はいつも、遠い場所を見ている。
十太の感情が物語の中で
描かれることは無く、
彼が何を考えているのか、
まったく読み取ることができません。
それなのに、物語の主役は、
いつも十太なのです。
真っ黒な海の先に、
なにかがあるのではないか?
そこには、きっと、
十太が目指すものもある。
『凪に溺れる』は、
聴く者の心を激しく揺さぶり、
どこまでも引きずりこんでいきます。
青羽悠『凪に溺れる』「凪に溺れる」が繋ぐ人々
物語の冒頭は、
派遣社員・遥(はるか)
の日常から始まります。
就活中の〝繋ぎ〟のために
始めた派遣社員の仕事は、
なんとなく続ける日々。
4年間交際している恋人とも、
特に心が弾む感覚も
なくなってしまいました。
疲れて帰った夜、
流していたYouTubeから、
突然聴こえてきた『凪に溺れる』。
遥は曲の持つ奥深さに衝撃を受け、
十太の曲に心を支配されていきます。
バンド名を調べても、
はっきりとした情報は
出てきません。
数日後、突然現れた
バンドの公式ページには、
驚きの情報がありました。
『2018年10月23日、Vo.霧野十太逝去。27歳』。
十太は、去年、
すでに死んでいたのです。
遥以外にも、
十太の学生時代を知る人物や、
バンド仲間など、
十太にまつわる人々が、
物語の中でどんどん
繋がっていきます。
みんなが十太をはっきりと
掴めないまま、
十太に魅了されていました。
その真実と曲を残して、
十太はいつのまにか消えて
しまったのでした。
青羽悠『凪に溺れる』 遠くに行きたいという思い
十太の生き方から、
自分が忘れていた何かに、
ハッと気づかされる思いがしました。
自分が目指すと決めたものに、
周囲に乱されずに突き進むのは、
とても難しいことです。
その生き方を、十太は、貫いている。
誰もが十太のようになりたい
と願いながら、
そうなれない自分に気づいてしまう。
夢に届きそうになっても、
その道を進み続けるのは
とても難しい。
―夢の切符というやつをつかんだとしても、待っているのが車両だとは誰も言っていない。それは乗り物なんて優しい形をしてはいなかった。
誰もが願ったことのある
遠くに行きたいという思いを、
とても鮮明に蘇らせてくれる。
この作品を読んでいるうちに、
「私の人生はこのままで
いいのかな?」
「もっとできることが
あるのではないか?」
と真剣に考えていました。
十太の曲と同じような力強い衝撃が、
文字から音に変わって伝わってくる。
そんな魅力をもった文章は、
新鮮で、今までに感じたこと
のない読後感です。
きっと読む人によって、
『凪に溺れる』は、
それぞれの音を奏でて
くれることと思います。
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