今回ご紹介する一冊は、
宮部みゆき著
シリーズ一期完結
「あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続」
です。
映像化もされている
「三島屋変調百物語
(みしまやへんちょうひゃくものがたり)」
はシリーズ化もされており、
作家宮部みゆきの人気作品のひとつとなっています。
自身も忘れられない悲しい過去をもつ主人公の
「おちか」はその過去を癒すために
叔父夫婦の家の袋物屋「三島屋」に移り住みます。
そこで叔父からこの世とは思えない不思議な話を
きく役割を任せられます。
「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」
の言葉通り決して他言無用で語り捨て、
聞き捨ての話は、不思議で、怖くて、
しかし話した人々は語り終えたあとに、
まるで重い荷物を下ろしたかのようになるのでした。
この「三島屋変調百物語」は
シリーズ第一期の最終巻とされており、
主人公おちかの人生の岐路でもある
内容の話となっています。
この巻以前に主人公がなぜ三島屋に
身を寄せることになったのか、
過去に主人公の身に何が起きたのか
語られていますので、
気になる方は全巻手に取ることを
お勧めします。
目次
怖さや悲しみだけではない「変わり百物語」
人間の愚かさ、残酷さ、哀しみ、業――これぞ江戸怪談の最高峰!
江戸は神田の筋違御門先にある袋物屋の三島屋で、風変わりな百物語を続けるおちか。 塩断ちが元凶で行き逢い神を呼び込んでしまい、家族が次々と不幸に見舞われる「開けずの間」。 亡者を起こすという“もんも声”を持った女中が、大名家のもの言わぬ姫の付き人になってその理由を突き止める「だんまり姫」。屋敷の奥に封じられた面の監視役として雇われた女中の告白「面の家」。百両という破格で写本を請け負った男の数奇な運命が語られる表題作に、三島屋の長男・伊一郎が幼い頃に遭遇した椿事「金目の猫」を加えた選りぬき珠玉の全五篇。人の弱さ苦しさに寄り添い、心の澱を浄め流す極上の物語、シリーズ第一期完結篇!
紹介されているお話は語る人ごとに
章が分かれています。
今回は「開けずの間」「だんまり姫」
「面の家」「あやかし草紙」「金目の猫」の
5つの話が収められています。
開けずの間では塩断ちをしたことで
「行き違い神」を引き入れてしまい
一家崩壊の運命になってしまった出来事を
平吉が語り、
だんまり姫では幼いころから
「もんも声」の力があるおせいが、
だんまり姫のもとに使え、
そこで「一国様」と出会い一国様の願いを
かなえるための奮闘を語ります。
あやかし草紙では三島屋にも出入りする
貸本屋「瓢箪古堂」の若旦那勘一が
読んではいけない一冊の冊子にまつわる話を語ります。
開けずの間はひたひたと迫るような怖さがあり、
だんまり姫は忌み嫌われる力があるおせいが
楽しくかわいらしく、
そのことを表しているようなおせいの語り口調に
ほっこりさせられました。
一国様は非業の死を遂げられていますが、
おせいの頑張りで一国様にも一筋の光がみえて、
悲しみの中にもどこかほっと安心することができました。
悲しい過去も過去として乗り越える
主人公のおちかは自身も忘れられない
悲しい過去をもっています。
三島屋に身を寄せたころは悲しい過去に縛られて、
なかなか前向きになれない様子でした。
そんなおちかが三島屋でたくさんの人から
語り手が自分の胸だけに固くしまい込んできた
「変わり百物語」を聞くようになり、
三島屋夫婦や従兄の富次郎、
出入りの貸本屋の勘一などの
優しさも手伝って少しずつ
前向きな気持ちを持てる
ようになったおちかの、
心の変化も感じられる物語であるとも
いえるのではないかと思います。
そんなおちかがシリーズ一期完結ともいえるこの本で、
おどろくような決断、行動をします。
シリーズでおちかを見守ってきたきた人に
とってはおちかの決断に良かったねと祝福したくなり、
決断の先にはどんな未来が待っているのか
気になるところでもあります。
この決断をする過程で、
おちかは胸にしまい込んだ過去を語る人々と一緒に、
自分の過去にもしっかり向き合って、
乗り越えたのではないかと感じました。
叔父がおちかを「変わり百物語」の
聞き手にしたのは間違っていなかった
とも感じました。
「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」は今でいうカウンセリング?
三島屋を訪れおちかに聞いてもらうことで、
どこか重い荷物をおろしたような様子
になる語り手のように、
人は誰かに聞いてもらうことで状況に
変化はないのかもしれないけれど、
どこかすっきりするということが
あるのかもしれません。
この世ではありえない不思議なことや怖いこと、
怪しげなことなどは余計に誰にも話すことが
できないのではないかと思います。
そんな中でおちかが聞き手になる
「変わり百物語」は
そんな人たちのための、
今でいう「カウンセリング」の役割をしている
のではないかと思いました。
「変わり百物語」は
「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」
というルールのもとで語られます。
そのルールに人は安心して話すこと
ができるのではないでしょうか。
この変わり百物語は決してきれいなものばかりではなく、
人間の強欲さや汚さ、
悲しみ、寂しさなども出てきます。
そのことは現在でもあり得ることだと思います。
しかしそれだけではないことも宮部みゆきは
教えてくれてくれています。
まだまだ続きそうな「三島屋シリーズ」、
作家宮部みゆきからは目が離せません。
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