今回は女性作家の凪良ゆう(なぎらゆう)さんの作品をご紹介します。
元々はボーイズラブの作品を執筆していた作家さんです。
ボーイズラブの作品を10年以上描き続けた後に、
今回の『流浪の月』で2020年本屋大賞受賞となりました。
人間関係の繊細な描写に定評があり、今回の作品でもその美点が生かされています。
間近の新刊では、『わたしの美しい庭』を発刊しています。
この作品では、ボーイズラブと一般文芸の融合的作品になっています。
目次
「流浪の月」あらすじ
2020年本屋大賞受賞
第41回(2020年)吉川英治文学新人賞候補作せっかくの善意をわたしは捨てていく。
そんなものでは、わたしはかけらも救われない。
愛ではない。けれどそばにいたい。
新しい人間関係への旅立ちを描き、
実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人間を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。
ある誘拐事件の映像から物語がスタートします。
主人公は、家内更紗(かないさらさ)という女性と、佐伯文(さえきふみ)
という男性の2人です。
やや風変わりですが幸せな家庭で育った更紗。
しかしその幸せは9歳の時に終わり、親戚の家に預けられることに。
それからは更紗にとって苦痛の日々を送ることになります。
帰りたくない更紗は、ある日公園で19歳で大学生の文と出会います。
そして自然な成り行きで、一人暮らしの文の家へ。
文の家がこの上なく安らげる場所だったため、これまた自然な成り行きで、
更紗は文の家に居着くことになります。
この成り行きの結果が2人の関係と外の世界に大きな壁を形成することになります。
知恵の輪を眺めているような人間模様
この作品の人間関係は知恵の輪と表現したいです。
複雑な出会い方をした更沙と文の奇妙な関係。
そして、それを取り巻く人間。
この奇妙な関係の2人と取り巻く人間の間に生まれるズレと軋轢の壁が高くて頭を抱えてしまいます。
誰かを想いやる中で生まれる"非情な"繋がりが知恵の輪のように絡み合ってしまい、
渦中にいる2人の生き辛さに悶絶させられます。
登場人物との絡み合いに悶絶するところに知恵の輪を連想しました。
ただ、最終的にはこの知恵の輪も良いのではと、考えさせられました。
当たり前な主観を壊された
この作品を読む前と読む後で、世の中をみる目が変わりました。
自分の持っていた主観は、あくまで一方的な主観であり全てではないという事です。
作中に登場する主人公の更沙と文の関係は、この一方的な主観では理解のできないものでした。
世の中には一方的な主観ではわからないものが沢山あって、
その主観を通した優しさは時に人を傷つけていた事、
多角的に見なければ優しさも凶器になるのだと、この作中の主人公を通して痛感しました。
この作品と出会わなければ、今起きている世の中の事件・事故に関しても良くない見方
をしていたのではと思います。
長年、セクシャルマイノリティを描き続けてきた作者だから描けた作品と言えるかもしれません。
起承転結の先にあるストーリー
主人公・更沙含め、登場人物の心情が一つ一つ繊細に描かれているので没入感は高いですが、
この作品には物語では当たり前な「起承転結」の"転"がそこまで強くないです。
この作品には大きな展開・唐突な展開はなく、流れる水のように緩やかに進んでいきます。
しかし読み終えた後、冒頭を読み返すと作品の色が大きく変わっていた事に気づかされます。
そして自分の考え方や前述した物事への見方が変わっていた事に驚かされます。
言うなれば月から太陽に変わっていたような、それぐらい大きく変わっていました。
小説としては珍しい感覚を味わえると思います。
普段から小説を読む人には今までにない感覚を、
本に触れる機会の少ない人にも新しい風を味合わせてくれる作品だと思います。
作家・凪良 ゆうさんの最新作『わたしの美しい庭』も合わせてオススメです。
【2020年本屋大賞】受賞作
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第6位:medium 霊媒探偵城塚翡翠/相沢沙呼
第7位:夏物語/川上未映子