今回ご紹介する一冊は、
米原 万里(よねはら まり) 著
『オリガ・モリソヴナの反語法』
です。
実話に基づく
フィクション小説です。
米原万里はその幼少期を
チェコのプラハで
過ごしたのち、
東京外国語大学、
東京大学大学院を卒業し、
小説家だけでなく
ロシア語の通訳と
しても活躍しました。
なんとエリツィン大統領
が来日した際には、
その随伴通訳を
務めているそうです。
そんなソビエトやロシアと
深くかかわってきた
彼女の経験が
本書の執筆にも
生かされていて、
本書は彼女の自伝的小説と
称されることもあります。
我が国が西側陣営に
属していたこともあって、
東側陣営の中心国で
あったソビエト連邦
という国には
馴染みがないかも
しれませんが、
その恐ろしい真相
について教えてくれる
のがこの物語です。
時代に翻弄されながらも、
不遇な境遇に負けずに
生きた
オリガ・モリソヴナ
という一人の女性の
人生譚がここにあります。
目次
米原万里『オリガ・モリソヴナの反語法』 あらすじ
1960年、チェコのプラハ・ソビエト学校に入った志摩は、舞踊教師オリガ・モリソヴナに魅了された。老女だが踊りは天才的。彼女が濁声で「美の極致!」と叫んだら、それは強烈な罵倒。だが、その行動には謎も多かった。あれから30数年、翻訳者となった志摩はモスクワに赴きオリガの半生を辿る。苛酷なスターリン時代を、伝説の踊子はどう生き抜いたのか。感動の長編小説。第13回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作。
弘世志摩は、
幼少期をチェコスロバキア
(現在はチェコと
スロバキアに分裂)
の首都、
プラハのソビエト大使館
付属学校で
学んだ過去を持ちます。
その学校には
オリガ・モリソヴナ
という名物舞踊教師
がいました。
彼女は50歳を自称して
いましたが
その見た目は明らかに
70歳を超えており、
それでいてとても
しなやかな肉体を
しているのです。
そして彼女の一番の特徴
はその独特の
「反語法」でした。
相手をけなすときは、
相手をトコトン褒める
ことで逆説的にけなすのです
彼女はその反語法で
生徒たちから
恐れられながらも、
また愛されてもいました。
ある日志摩は
友人のカーチャから、
大使館付属学校で
教師になるには
とても厳しい条件を
クリアする必要がある
という事実を聞かされます。
しかし、それらの条件を
オリガ・モリソヴナが
満たしているようには
思えなかったのです。
志摩が42歳となった今、
彼女は
オリガ・モリソヴナ
について調べるため、
ロシア外務省を
訪れていました。
果たして、
志摩はどのような真実を
目にするのでしょうか。
米原万里『オリガ・モリソヴナの反語法』 のストーリー
この物語は、
第二次世界大戦から
冷戦にかけての、
激動の時代に
翻弄された一人の女性
の人生を描いています。
戦争となると、
どうしても描かれるのは
男性の物語ばかりですが、
この小説は
女性にフォーカスを当てて、
その数奇な運命を
たどっているのです。
そしてこの小説の
最も驚くべき点は、
その内容が事実に
基づいているという点です。
百冊にも及ぶ参考文献の
半分ほどはロシア語の
文献であり、
いかに事実に忠実で
あろうとしているか
がうかがえます。
しかし同時に、
一度読み終えると
本当にこの小説は
事実に基づいているのか
と疑わずにはいられません。
それほどまでに、
その内容は衝撃的で、
平和な時代を
生きている私たちには
想像もつかないような
物語が語られます。
冷戦における東側陣営、
つまりは共産圏の国々が
人々にどのような生活を強い、
どのような仕打ち
をしたのか、
この物語が描くのは
そんな歴史です。
志摩の視点で、
彼女と共に
オリガ・モリソヴナ
について調べているか
のような感覚に
させてくれるのも
大きな特徴でしょう。
一つの小説作品として、
あるいは歴史を学ぶ上
での足掛かりとして、
私たちを楽しませて
くれる作品です。
米原万里『オリガ・モリソヴナの反語法』 が描く歴史
2016年に、
この小説はNHKで
オーディオドラマ化
されました。
『映像の世紀』のように、
20世紀の人類の
負の歴史を後世に
伝える作品が
多くありますが、
このオーディオドラマも
その一つと言えるの
ではないでしょうか。
粛清やラーゲリ
(強制収容所)などと
いった言葉は、
現代に生きる私たち
には馴染みが無いかも
しれません。
しかし、それらが決して
遠い存在でないのも確かです。
例えば香港では
民主化運動が激化し、
多くの人が逮捕されたのは
記憶に新しいですし、
ロシアの
プーチン大統領が
反対派を秘密裏に
殺害していく様子は
さながら粛清です。
そして、
そういったことが
日常的に行われていた
時代も、
決して遠くない昔
にありました。
この物語は、
全体主義的な
ソビエトという
国家のもとでの
人々の苦難を描いた、
壮大なヒューマン
ストーリーです。
今を生きる私たち
だからこそ、
呼ぶべき作品
なのかもしれません。
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