今回ご紹介する一冊は、
伊坂幸太郎 著
『アイネクライネナハトムジーク』
です。
2014年に単行本として出版され、
2017年には文庫化。
2019年には
三浦春馬さん主演で映画化
されたことでも話題になった、
伊坂幸太郎の恋愛短編集です。
斉藤和義の
「ベリーベリーストロング」
という曲の歌詞は本作を
元に書かれたとも
言われています。
短編集ですが、
普通の短編集とは
一味違う作品となっており、
読み応えがあります。
目次
伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』 「日常にあるサプライズ」をテーマにした恋愛モノ
妻に出て行かれたサラリーマン、声しか知らない相手に恋する美容師、元いじめっ子と再会してしまったOL……。人生は、いつも楽しいことばかりじゃない。でも、運転免許センターで、リビングで、駐輪場で、奇跡は起こる。情けなくも愛おしい登場人物たちが仕掛ける、不器用な駆け引きの数々。明日がきっと楽しくなる、魔法のような連作短編集。
本作品は、
日常で起こるちょっとした
サプライズや偶然を
描いた恋愛小説です。
その場では何気ない関わりが、
その後の行方を大きく左右する。
その場では気付かなくても、
後になって考えると
そうだったということは、
日常でも意外と多いと
思います。
そんな様子をストーリー化
したのが、本作品です。
表題にも出てくる
「アイネクライネ」では、
先輩の身に起きた
人生最大の事件のおかげで
街頭アンケートという
罰ゲーム的な仕事をする羽目
になった男性と、
街で偶然そのアンケートに
協力することになった女性
の出会い、
そしてその後の偶然の再会が
描かれています。
アンケートの時点では
単なる「出会い」ですが、
後日の再会によって
その「出会い」は
「偶然の出来事」となり、
その後の展開をつい期待
したくなります。
本作品ではこの他に4つの
サプライズエピソードが
ショートストーリーとして
描かれています。
そして最終章は表題の一部
ともなっている
「ナハトムジーク」。
こちらはここまでの
ストーリーの「その後」として、
登場人物たちのその後が
描かれています。
伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』 サクサク読める短編集だけど1つの壮大なストーリー
本作品は短編集ですが、
実はすべての章が
つながっています。
随所に偶然の出会いや
サプライズが盛り込まれて
いるので、
話同士がつながっていても
「すごい偶然だな」
「世の中は狭いな」
といった感覚で読み進めて
しまいますが、
全体を俯瞰してみると
短編集のようで実は、
ひとつの大きな恋愛
ストーリーが描かれている
ような体裁になっています。
登場人物は、
ひとつの章ごとに2~3人程度。
これだけだとひとつひとつ
の章ではそこまで複雑な
ストーリーでもなく、
また展開もテンポ良く
進んでいくので
サクサク読めます。
描写も分かりやすく
心情が描かれていて、
「あるある!」と
共感したくなる
ようなエピソードばかり
なので感情移入しやすく
なっています。
ですが、最後のまとめ
「ナハトムジーク」を除いても
5章もあり、
ここまでくると
登場人物も多く
読み応えのある作品に
変わります。
しかも登場人物たちは
友人同士だったり
親子だったりと、
偶然どこかしらつながり
のある人たちばかり。
なのでテンポよく
サクサクと読み進めていると、
誰と誰がどんなつながりか
分からなくなってしまう
ほどです。
「この人、誰だったかな、
どの章で出てきたかな」
と振り返りながら
読んでいくと、
長編推理小説までは
いかないにしても
それなりに骨太な
ひとつの物語になっている
と思います。
ちなみに、私は登場人物を
覚えるのが苦手なのですが、
エピソードは割と記憶に
残るほうだと思っています。
本作品の場合、
登場人物同士が
偶然のエピソードで
つながっている場合が多く、
またエピソードを鍵として
物語がつながっている所が
何か所も出てきます。
私のように登場人物を
覚えるのが苦手という方はぜひ、
エピソードを鍵に
ストーリーを追っていく
ことをおすすめします。
伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』 結末を敢えて想像するのもおもしろい
本作品は最終章を
のぞいてどれも、
「これからいよいよ二人の関係
が進展していきそう?」
というところで話が終わります。
「たまたま街ですれ違った人」
から
「偶然のサプライズを共有した人たち」
というようにステータスが
変わったところ、
というタイミングです。
この2人が
これからどうなるのか。
恋に発展するのか?
それとも新たに別の人物が
出てきて、
さらに関係性が
変わっていくのか?
とつい想像してしまいたく
なるような、
余韻を持たせた状態で
章が終わっていきます。
恋愛や人間模様などは、
もちろん結末が知りたく
なるものですが、
あえて結末が分からない状態で
「どうなっていくのか」を
あれこれ想像するのもまた
楽しいものだと思っています。
とくに本作品の場合は
過去にいろいろ抱えていたり、
最近いやなことが続いていたり
とネガティブな背景を
もつ登場人物が
「ちょっと前向きになれそうだな」
「これから頑張ろう」
と思えるような
タイミングで章が終わります。
ポジティブで
爽やかな後味なので、
その後を想像するのも
また心が暖かくなる感じ
がしました。
最終章「ナハトムジーク」では、
それまでのストーリーを
受けたその後が描かれています。
こちらは登場人物たち
それぞれの結末がどうと
いうよりは、
ストーリーの中に置かれた
伏線をひとつひとつ
回収していく
イメージです。
こちらを読んで、
ある意味答え合わせの
ようなことをするのも
また良しですが、
個人的にはあえて
最終章は読み込まず、
各エピソードを読んだ後の
ワクワク感、
すがすがしい気持ちを
大切に味わうのも
本書の楽しみ方の
ひとつではないかな、
と思います。
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