今回ご紹介する一冊は、
平山 夢明（ひらやま ゆめあき）著
『他人事』です。
この作者で現在一番有名な作品は
『ダイナー』ではないか
と思います。
殺し屋の集まるレストランが
舞台のストーリーで、
映画化もされましたね。
とは言っても、
そこまでメジャーな小説家
ではないと思い
手に取ってしまったこの一冊ですが、
いやぁ実にグロテスク。
あってはならない事、
大人がしてはダメな事、
非常識という言葉では
片づけられないような、
我々が生きる社会の闇の中の、
そのまた闇が描かれている
ような作品です。
『他人事』は、
表題である「他人事」を
始めとする14の小説から成る
短編集です。
一つ御忠告を。
食事の前には、
読まない方がいいかもです。
目次
平山夢明『他人事』 「他人事」
2007年度「このミステリーがすごい!」第1位作家の作品集!
交通事故で重傷を負うが、助けてもらえない男。引きこもりの息子を殺害する決断をする父。自殺しようとする女を誘惑する若者。等、コミュニケーション不能の他人に蝕まれてゆく恐怖を描く。
それでは、
まずこの短編集の表題
にもなっている
「他人事」から
紹介をしていきましょう。
車で崖から転落して
しまったユウイチと涼子。
更に幼い亜美という女の子も
乗っていました。
運よく命は取り留めますが、
涼子は身動きが取れない体勢
になってしまい、
ユウイチは足を挟まれ
大けがを負います。
そして、亜美の姿が車内には、
ありませんでした。
そこに現れた、一人の男。
3人を救う救世主のように
ユウイチと亜美は思ったでしょうが、
この男が狂っているというか、
サイコパスと言うか、
他人の痛みとか気持ちが
分からないような人物なのです。
亜美の泣き声を聞いた涼子は、
その男に亜美を安心させるよう
頼むのですが、
男にとっては完全に「他人事」。
絶望的状況に陥った人がいれば、
助けるのが普通。
いくら悪人でも、
例外ではないでしょう。
この男性は完全に素知らぬ顔を
するだけではなく、
2人の懇願をのらりくらり
かわしていき、
逆なでするような行為を犯します。
他人の痛みと絶望を喜びに
変えるような男との出会いでした。
短編集一発目がこんな話なら、
後々どんな残酷な話が
待っているんだと読むのを
ためらってしまう人も
いるかもしれません。
終わり方も救いのない
エンディングです。
この短編集を通して、
ハッピーエンドはないと
思っていただいて結構です。
しかし、読み進めるにつれて、
こんな小説があっても
いいなじゃないかと、
思えてくるから不思議です。
平山夢明『他人事』 人間失格
私は「他人事」の中で、
この作品が一番好きでしたね。
舞台は橋の上。
自殺をしようとする女性と、
それを止めに入った男性との
会話を中心に話は進んでいきます。
男性は、何とかして
女性の自殺を思い
とどめようとします。
橋から飛び降りた後、
女性の遺体にどんな運命が
待っているのかなど、
残酷でグロい描写を伝えることで、
少しずつ女性の心に
死ぬのをやめようという
気持ちを芽生えさせ、
実は自分も死ぬつもり
であることを告白するのです。
男と男の彼女は、
半年前に同じ場所から飛び降り、
自殺を図ったというのです。
しかし、男性は助かってしまった。
だからそのケリを
男はつけに来ました。
対して自殺しようとする
彼女の理由は、
神経系の病で、
近い将来植物人間になってしまい、
現在目も見えなくなり、
将来に絶望し、
且つ最愛の男性も
2日前に死んでしまった
というのです。
その女性の名前は
「しおり」といいました。
男性は「エイイチ」。
2人は互いを曝け出す事で、
自殺の直前という
極限状態で段々と心の距離を
縮めていきます。
最後には、しおりは自殺を
思いとどまり、
エイイチと共に暮らすことを
心に決めます。
そこでエイイチの携帯が鳴り。。。
その後は是非物語を
読んでくださいね。
若干ながら太宰治の
人間失格のオマージュと
見て取れる所もありますね。
しかし、本当の意味での人間失格は、
そのラストです。
是非ご堪能あれ。
平山夢明『他人事』 非常識すぎるストーリー達
初版は2010年のこちらの作品。
文庫版には、
巻末に冨樫義博氏の解説
も付いています。
幽遊白書、
ハンターハンターの作者
ですね。
彼も平山夢明氏の
大ファン見たいです。
確かに、
7つ目の短編「恐怖症召喚」は、
どこどこなく漫画チックな
テイストも取れますね。
富樫氏の書評も見事である
と思いました。
他の小説が
恋愛・正義・勝利を語る、
いやそれがほとんどで
あるがゆえに、
『他人事』のような小説の
存在意義があるといいます。
『他人事』で書かれている内容は、
社会的に最悪な内容ばかりです。
しかし、綺麗ごと抜きにして
この社会には常識で測れない
精神状態の人間がおり、
その人間が引き起こす
最悪の事態も多々あります。
しかし、多くの人はそれを恐れ、
知ろうとしない。
この世は善ばかりではない、
悪も確実に存在する。
そして、
怖いのは幽霊でもなんでもなく、
狂った人間なのだと
教えてくれた作品です。
でももう一度言いますが、
食事中に読んだりしない方が、
身のためですよ。
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