佐伯泰英『新酒番船 (光文社文庫)』あらすじと感想!江戸が活気づいた熱い海のレース

 

今回ご紹介する一冊は、

佐伯泰英(さえき やすひで)

『新酒番船(しんしゅばんふね)』

です。

著者は、元闘牛カメラマンという、

異色の経歴を持つ小説家です。

闘牛カメラマン時代はスペインに滞在し、

闘牛をテーマとした小説を書いていました。

1999年頃から、

時代小説を中心に執筆を開始します。

人気シリーズの多くは、

書下ろしとして出版され、

映像化されている作品もあります。

『居眠り磐音 江戸双紙』シリーズは、

NHKドラマ『陽炎の辻』として、

ドラマもシリーズ化され、

私も毎回楽しみにしていました。

佐伯さんの公式WEBページでは、

新刊情報や、発表年ごとの作品一覧を

見ることができます。

写真やエッセイも掲載されることがあり、

とても楽しいWEBページですので、

こちらもぜひ拝見してみてください。

 

 

 

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佐伯泰英『新酒番船』夢と希望を運ぶ新酒番船

 

佐伯泰英、待望の書下ろし新作!
江戸の人々が熱狂した船のレース「新酒番船」の競争の世界が生き生きと蘇る!

 

おれはが好きだ。

丹波篠山(たんばささやま)で

育った18歳の海次(かいじ)は、

海に強い憧れを持っていました。

昨年、新酒番船の船出を目にしてから、

海への憧れは、より一層強くなっていました。

物語の舞台は江戸時代

海次の家系は、代々、酒造りに励んでおり、

父も兄も酒蔵の蔵人です。

今年も西宮の酒蔵にて、

百日稼ぎの酒造りを終えた海次は、

このまま自分も蔵人の道を進むことに、

迷いがありました。

酒を造るよりも、

親父の酒を乗せて運ぶ海の仕事がしたい。

目の前に見える広大な海のように、

海次の夢は、

大きく膨らんでいくばかりでした。

新酒番船は、灘や伊丹など関西地方の酒を乗せて、

西宮から江戸へと運びます。

毎年恒例、新酒番船による江戸までの酒を運ぶレース

その年は15隻の新酒番船が用意され、

江戸への一番乗りを目指した

大イベントが幕を開けようとしていました。

一番乗りで江戸に到着した酒には

〝惣一番〟の称号があたえられ、

その酒は、1年間高値で売ることを認められるのです。

海次の親父の酒『神いわい』は、

勝利のため新造した三井丸にて、

初めての〝惣一番〟を

目指します。

その船に、なんとしてでも

乗り込みたい海次は、

驚きの行動に出たのでした。

 

 

 

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佐伯泰英『新酒番船』命がけの海上レース

 

海次は兄・山太郎の口利きで、

三井丸への酒樽積みを手伝わせてもらいます。

怪力の海次は大活躍し、

船員たちの出航前夜の夕食に招待されます。

夕食後に帰ったふりをした海次は、

そのまま、こっそり三井丸の船内に

身を潜めるのです。

そして翌日、無謀な密航者として

海次の船旅がスタートします。

海次は、ただ格好いいだけではない、

海の恐ろしさを知ることになります。

荒れ狂う波の中、沖に流されることもあれば、

海賊船から攻撃を受けることもある。

海の男になれば、

いつ命を落としてもおかしくないのです。

天候や波の状態によっては、

船は思うように進みません。

想像以上の困難を伴うレースに、

私たちも目が離せません。

しかし、どんな状況になっても、

海次は落ち込まないし、ひるみません。

どこまでも前向きで、まるで止まることの

できないマグロのように、

自分がするべきことに豪快に突き進みます。

海次のこのパワーが、山太郎や、

幼なじみの小雪をはじめとした周囲の人々を、

強く惹きつけるのだと感じました。

海次がいると、周りの人々が自然と、

海次を中心に動き出します。

どんな困難も大したことではないと、

あっさりと思わせてくれる

頼もしさがあります。

 

 

 

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佐伯泰英『新酒番船』不器用な恋模様

 

海次が思いを寄せる幼なじみの小雪は、

兄・山太郎との結婚が決まっていました。

蔵人として半人前の自分よりも、

酒蔵の跡を継ぐ兄といたほうが、

小雪は幸せになれる。

海次が小雪を思って、

兄との結婚をはからったのです。

海を目指し、自分の好きな道で

自由に生きようとする海次。

江戸へと進む海次は、

小雪を無理矢理遠ざけようと

しているようでした。

この無謀な密航は、海次にとって、

小雪との別れでもあったのです。

一人で何もかも決めてしまう海次は、

周囲の想像を超える覚悟で

船に乗り込んでいたのでした。

 

 

 

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佐伯泰英『新酒番船』明るく爽快な心地よさ

 

人々の歓声の中、

新酒番船が船出をするシーンは

心が躍ります。

西宮と江戸の人々を活気づかせてくれる

新酒番船のレース。

酒が酒樽の香りをまとい、

船にゆられてまろやかさを増す。

蔵人が丹精込めて造った酒が、海の上で、

より深みを増すという点が、

とても感動的でした。

自分たちが見たことの無い時代へと

連れて行ってくれる時代小説。

その時代を生きた人々の大切に

していたものが切り取られ、

物語の中で熱を持って動き始めます。

本作は、特に人々の明るい姿が切り取られており、

読み終えた後に希望を与えてくれる

爽快感がありました。

海次が自分の好きな道を信じて進む姿に、

明日の自分を少し変えてみようと、

前向きな気持ちにさせてくれる作品です。

 

 

 

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