2019年、
『ベルリンは晴れているか』で
第160回直木三十五賞候補、
2019年本屋大賞第3位に輝いた、
ミステリー作家・
深緑野分(ふかみどりのわき)の
2016年の作品
「戦場のコックたち」を
ご紹介します。
この作品は
アメリカ陸軍のコックで
主人公のティムが
第二次世界大戦の
ノルマンディー上陸作戦に
参加するところから始まり、
コックとしての仕事をしつつ、
時に戦い、
時に個性豊かな仲間たちと
謎解きをしていくという
長編ミステリー作品です。
戦争が舞台になっている
ということで難しいイメージ
がありますが、
主人公が職業軍人ではなく
志願兵なので詳しくない人でも
分かりやすく読むことができます。
また、主人公が気弱で
おばあちゃんっ子なところも
あって親近感が湧き、
ついつい感情移入してしまいます。
推理小説という面でも
分かりやすく謎解きが
されているので
推理が分からなくなったり、
苦手な人でも読みやすい作品
となっています。
*第2位『このミステリーがすごい!2016年版』国内編ベスト10
*第2位「ミステリが読みたい!2016年版」国内篇
*第3位〈週刊文春〉2015年ミステリーベスト10/国内部門
*第154回直木賞候補
目次
主人公の目線で見る戦争
生き残ったら、明日は何が食べたい?
1944年、若き合衆国コック兵が遭遇する、戦場の〝日常の謎″
『ベルリンは晴れているか』の著者の初長編
直木賞・本屋大賞候補作1944年6月6日、ノルマンディーが僕らの初陣だった。コックでも銃は持つが、主な武器はナイフとフライパンだ――料理人だった祖母の影響でコック兵となったティム。冷静沈着なリーダーのエド、陽気で気の置けないディエゴ、口の悪い衛生兵スパークなど、個性豊かな仲間たちとともに、過酷な戦場の片隅に小さな「謎」をみつけることを心の慰めとしていたが……『ベルリンは晴れているか』で話題の気鋭による初長編が待望の文庫化。
ノルマンディー上陸作戦で
ヨーロッパへとパラシュートで
降下するところから
物語は始まります。
主人公のティモシー・コール
(ティム)は食べることが
大好きな青年です。
ティムはおばあちゃんっ子で、
おばあちゃんの作る料理を食べるのも、
作っているのを見るのも
好きな青年です。
そんな好きなおばあちゃんの
料理帳を持って
第二次世界大戦に参戦した
アメリカ合衆国陸軍に志
願して入隊をします。
普通の青年から兵士になった
ということで私達、
戦争を知らない人と
同じ目線で戦争を感じていきます。
主人公は戦争の悲惨さ、
残酷さを感じていく中で
段々と殺すことに
慣れていってしまうというのが
話が進む中でも分かります。
また、人間の残酷な面が
とても明確に書かれています。
ドイツ人に協力したという理由で
近所の人から攻撃された一家や、
ユダヤ人収容所を見つけて
人間が薪のように
積みあがっている、といったことです。
映画「シンドラーのリスト」でも
収容所の様子が出てきますが、
知識として知っている私でも
その恐ろしい光景に
鳥肌が立ち人間の残虐性、
ナチスの行ったことを
再確認しました。
舞台がアメリカ軍のヨーロッパ戦線、
ノルマンディー上陸作戦ということで
映画『プライベートライアン』を
見たことがあると想像が
しやすいと思います。
この映画でのライアンもティムと
同じ第101空挺師団に所属しています。
ということはどこかで会っていたり、
すれ違っていたかもなんて
読みながら感じました。
コックとしての立場・軍隊は胃袋で行進する
主人公のティムは
コックとして参戦しています。
軍隊の中ではコックというのは
他の兵士からは
下に見られています。
罰として皿洗いをさせられたり、
というイメージです。
物語の中でも“チキン”と言われて、
軽んじられるような描写があります。
ですが、ティムや仲間達は
コックとして兵士達の腹を
満たさなければなりません。
そうでなければ兵士達は
戦えないのです。
軍隊を支えていると言っても
過言ではないと思います。
普段は料理を作り、
兵士として銃を持つこと
もあります。
読んでいる私からすると、
戦闘をした後にさらに
料理までするなんて
ものすごく大変で、
すごいことをしている
と感じました。
物語の中で、
補給が何日も途絶えて
しまうことがあります。
それでもレーションを平等に配り、
少ない材料の中で
料理を作ったりと
部隊を支えていきます。
食べ物がないと人は
どんどん擦り切れていってしまう
ということを読んでいて
感じました。
謎を解く
少し長めの短編が
5編書かれています。
推理小説としては謎解きを
する割合は少ないかもしれません。
ですが、個性豊かなキャラクター
と戦争の残酷さが
よく描かれている作品で、
とても面白かったです。
謎解きをするのは、
ティムの仲間で
エドワード・グリーンバーグ(通称エド)
というコック仲間がいるのですが、
このエドが切れ者で周りで
起こる不思議なことを推理して
謎を解いてくれます。
エドの説明を聞いてティムや仲間、
読者が謎を理解していく
という形になります。
なので、私はその場に
一緒にいる感覚で読みました。
軍隊で粗野な部分もあるので、
そういうキャラがエドに
「どういうことだよ?」
と聞くと分かりやすく
エドが説明してくれるので
ミステリーが苦手な私でも
理解することができました。
謎の内容はアメリカ軍の中
での出来事や、
そこに住む市民のこと
だったりさまざまです。
物語という面では史実を
元にしているので結末は
見えているということに
なりますが、
その過程までに
私達と同じ人間が存在していて、
残酷なこと、仲間との思い出、
さまざまなことが
あったのだろうと
実感できる作品です。