今回ご紹介する一冊は、
今村 夏子 著
『星の子』です。
この作品は、
第157回芥川賞候補、
第39回野間文芸人賞受賞作
であり、
本屋大賞にもノミネート
されました。
2020年10月9日に
芦田愛菜さんを主演に迎え、
『日日是好日』や
『さよなら渓谷』
の大森立嗣監督で
実写映画化されることで、
再び注目を集めています。
原作者の今村夏子さんは
『むらさきのスカートの女』で、
令和初となる
第161回芥川賞を
受賞されました。
寡作ながらも
作品を発表するごとに
ファンを増やしつづけて
いる今村夏子さん。
今村さんの小説は
わかりやすい言葉遣いと
穏やかな雰囲気なのに、
いつのまにか想像も
しなかった結末に
進んでいくことが
多いそうです。
ぜひそんな予想できない
今村さんの作品に
触れてみてください。
目次
今村夏子『星の子』 繊細な視線の変化が魅力
林ちひろは中学3年生。
病弱だった娘を救いたい一心で、両親は「あやしい宗教」にのめり込み、その信仰が家族の形を歪めていく。
野間文芸新人賞を受賞し本屋大賞にもノミネートされた、芥川賞作家のもうひとつの代表作。
《巻末対談・小川洋子》
この作品は
“あやしい宗教”を
深く信じている両親
に育てられた
主人公のちひろが、
生まれてから、
思春期といえる
中学3年生になるまでを、
ちひろの視点で描いています。
あやしい宗教に
はまった家族の話、
と思って読みはじめたのに
想像していたよりも
穏やかに話の展開に
びっくりしました。
もっと悲惨に話だと
想像していたので。
でもそれはちひろの視線で
話が進んでいるから、
悲壮感が
ほとんどないだけで
実際は宗教にお金を
つぎ込むことによって
住むおうちがどんどん
小さくなっていったり、
親戚との関係が
悪化したりしているのです。
でもその辺りは怪しさや
怖さがふわっと描かれ、
読者はスルーして
しまいそうなくらいです。
もし現実なら、
全力で止めに入るだろう
と思います。
子どもの視線、恐るべし。
けれどちひろは
成長していくにつれ、
自分が周りと違うこと
に気づき始めます。
もし生まれ時から
それが宗教が側にあったら、
成長とともにどんなふうに
心が変化していくんだろう。
ちひろの宗教に対して
フラットだった視線が
揺れ動いていく様子が、
丁寧に、繊細に描かれます。
それがこの作品の
面白みのひとつです。
今村夏子『星の子』 自分が信じたいものは何かという問い
両親が宗教にはまったのは、
ちひろの幼い頃の
原因不明の湿疹が、
その宗教が売る水で
身体拭くことによって
治ったからです。
当時の様子が母の日記があり、
ちひろはそれを
読んでしまいます。
ちひろはそれを見て、
確かに宗教は両親を救った
と感じたのではないでしょうか。
我が家は他の家とは違うけれど、
それを信じている両親
の純粋な心を
否定することも
出来なかったと思います。
大好きな両親と
同じものを信じたい気持ちと
成長するにつれ大きくなる違和感に、
ちひろは板挟みに
なってしまいます。
作中、こんな台詞があります。
「ぼくは、ぼくの好きな人が信じるものを、一緒に信じたいです。(「星の子」P206から引用)」
信じるということは
なんなのか、
問い掛けられた気が
しました。
今村夏子『星の子』 これは家族の物語
読み終わって感じたことは、
これは普通の家族の
お話だなぁということです。
子どもが成長して、
親から離れていく時の
寂しさが描かれているのです。
もしかしたらあやしい
宗教だって、
ただ少し世間に相
容れられないだけで、
普通の子が
「あれ、うちはちょっと違うな」
と思う程度のこと
だったのかもしれません。
ちひろが成長して、
宗教や両親と向き合わざる
を得なくなる結末。
ちひろが彼女の人生において
どんな選択をするのか、
読んでも全くわかり
ませんでした。
それでも名前のつけられない、
寂しさのような感情が
溢れました。
それは別に特殊な家庭環境
だから感じた感情では
ないような気がします。
ぜひあなたの解釈で、
楽しんでいただきたいです。
そして映画も楽しみです。
ちひろは芦田愛菜さんじゃなきゃ!
と思わせるほどイメージ通り
でした。
ちひろのフラットな視線を
芦田さんがどう表現するのか。
映像化することで、
宗教に怪しさは
どの程度伝わってくるのか。
ラストシーンに
どんな気持ちになるのかも含めて、
公開を心待ちにしたい
と思います。
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