井上ひさし『十二人の手紙』作品の感想とあらすじ!作者の超絶技巧

 

今回ご紹介する一冊は、

井上ひさし

『十二人の手紙』です。

 

井上ひさし氏といえば、

日本を代表する作家、

劇作家として、

没後十年になる現在でも、

その存在の大きさは

少しも減じていません。

 

連続人形劇

「ひょっこりひょうたん島」や

多くのコント台本で

キャリアをスタートさせ、

 

その後、『日本人のへそ』で演劇界に、

『ブンとフン』で作家として

デビューし、

『手鎖心中』で第67回直木賞、

『道元の冒険』で

第17回岸田戯曲賞などを受賞。

 

『吉里吉里人』では

第二回日本SF大賞まで

受賞しています。

 

『十二人の手紙』

そんな井上氏による連作ミステリです。

 

全部で十三話ですが

プロローグとエピローグは

あわせて一人と数えるようです。

 

そのプロローグと

エピローグを除けば

(エピローグにちょっとした

仕掛けはありますが)、

個々のエピソードに

関連はありません。

 

けれど全てが書簡体小説である

という仕掛けが共通した、

かなり癖のある連作集です。

 

 

 

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井上ひさし『十二人の手紙』 書簡体のミステリ

 

キャバレーのホステスになった修道女の身も心もボロボロの手紙、上京して主人の毒牙にかかった家出少女が弟に送る手紙など、手紙だけが物語る笑いと哀しみがいっぱいの人生ドラマ。

 

 

書簡体で書かれた

小説の面白い点は、

たとえミステリでなくとも、

読者が書かれている内容

を鵜呑みにはしないことです。

 

一人称小説で記述者=犯人

という形式は、

かの女王の名作以来、

万回繰り返されて、

ミステリではもはやクリシェですが、

 

それでも読者は書簡体小説を

読むときのようには

記述を疑いません

(それがミステリの場合は、

お約束だからでもありますけどね)。

 

自分もそうだからか、

手紙を読むときは、

必ずしも本当のことは

書かれているとは限らないことを

皆さん前提にするようです。

 

不誠実(かも知れない)

記述者というのは、

ミステリ的には非常に面白い。

 

『十二人の手紙』は、

過剰に形式的かと思えば、

大仰に親密さを訴えかけてくる、

手紙表現特有の

嘘くささを利用して、

読者をはめに来ます。

 

実際嘘だったとバラされる手紙も多く、

それも完全な作り話から、

差出人の妄想、さ

らには物悲しくなるような虚構まで、

ほんとにあの手この手です。

 

虚構の差出人という仕掛けも面白い。

 

要するに受け手が

騙されているんですが、

受け手より先に読者が

そのことに気づいてしまう。

 

これは読者がトリックを見抜いた

と言うんじゃなくて、

おそらくはそうなるように

造ってある。

こういう作り込みも興味深い。

 

 

 

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井上ひさし『十二人の手紙』 超絶技巧

 

作者の超絶技巧を

感じさせるのはまず

「赤い手」という作品でしょう。

 

これは生真面目な修道女が

馬鹿げた思い込みから、

人生を棒に振ってしまう

という悲劇なのですが、

これを構成するのが手紙ならぬ、

公文書なのです。

 

出生届に始まり、

母親の死亡診断書、

学校の欠席届、

転籍届に修道女請願書。

 

そして婚姻届に

羅火災証明書と死産証書と、

無味乾燥なお役所の文書に

わずかな修道院長の肉声を

混ぜるだけで、

 

一人の女性の悲劇的な

(あるいは喜劇的な)生涯を

浮き彫りにする技工はとんでもない。

 

もっと凄まじいのが

「玉の輿」という作品です。

ラストでは脱力しますよ。

 

病身の父親のために、

誠実な恋人を袖にした女性の

運命を描く、

ドラマチックな短編なのですが、

同時にある縛りのもとに

小説を書くという、

ジョン・スラデックあたりを

思わせる実験小説でもあります。

 

妙にアヴァンギャルドを

気取った前衛小説より、

よっぽど尖った文学実験を

やってるのに、

ちゃんとエンターテイメント

になってるという。

こういうのを才能と

いうのかも知れません。

 

 

 

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井上ひさし『十二人の手紙』 プロローグとエピローグ

 

プロローグで展開される

「悪魔」というお話は、

田舎でもおぼこ娘が、

勤め先の社長に

いいように弄ばれて、

真相を知った衝撃から、

社長の娘を絞め殺してしまう

という悲劇です。

 

井上ひさし氏の曖昧な

パブリックイメージから、

ハートウォーミング系の

お話を期待してると、

カウンター・パンチを

喰らうことになります。

 

エピローグでは

この女性の弟が銃と

ダイナマイトを手に登場し、

社長に復讐しようとします。

 

そのために人質に取られる、

あるホテルの客として、

これまでの短編の

キャラクターたちが再登場し、

事件のその後の姿を

見せるという趣向です。

 

ここで暴かれる意外な関係

みたいなものもあって、

最後まで楽しませてくれます。

 

 

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