高嶋哲夫『首都感染(講談社文庫)』コロナ禍に酷似した「予言書」あらすじと感想

 

『首都感染』は、

2010年に発表された高嶋哲夫のSF小説です。

高嶋哲夫は他に、

サントリーミステリー大賞を受賞した

『イントゥルーダー』や、

青少年読書感想文全国コンクールの

課題図書となった『風をつかまえて』など

の代表作で知られています。

この『首都感染』致死率が60%にもなる

新型インフルエンザのパンデミックを描いた小説です。

しかし新型コロナウイルスの流行拡大と、

その内容があまりにも酷似していることから

「予言書」と呼ばれメディアに取り上げられる

など世間を騒がせました。

実際に読んでみると、多少の違いはありますが、

まるで現実を描いたノンフィクション小説で

あるかのように感じられるほど、

その内容は真に迫っています。

コロナ禍で色々なことを考えさせられる今こそ、

読んでいただきたい作品です。

 

 

 

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高嶋哲夫『首都感染』のあらすじ

 

時に20xx年。

中国ではサッカーワールドカップが開催され、

世界は熱狂に包まれていました。

そんな中で、中国南部の雲南省では、

致死率が60%にもなる

新型の強毒性インフルエンザが確認され、

一瞬にして複数の村が壊滅する事態に至ります。

中国当局はワールドカップの中止という事態を避けるため、

このことを公表せずに封じ込めようと試みますが、

その目論見も失敗に終わってしまうのです。

かくして新型インフルエンザは日本を含む世界へと

拡大していくのですが、

爆発的流行を防ぐために日本国政府も様々な対策を講じます。

かつてWHOに勤務し、

政府対策本部のアドバイザーとなった瀬戸崎優司は、

空港での検疫を徹底させるなどしますが、

ついに都内でも、

初の感染者が確認されるのです。

感染は瞬く間に23区内を拡大していきますが、

さらなる感染拡大を防ぐため、

時の首相は「東京封鎖」を決断します。

驚異的なウイルスを前に、

政府の対策は果たして成功するのでしょうか、

そして、封鎖された東京内部の人々は一体……。

 

 

 

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『首都感染』のストーリー

 

この作品はそのリアリティがよく話題に

なっていますが、

魅力はそれだけではありません。

そのストーリー、登場人物たちの織り成す人間ドラマも、

とても魅力的で面白いものに仕上がっています。

主人公である瀬戸崎優司は30代ととても若いですが、

敏腕の医師であり、

寝る間も惜しんで感染拡大防止へ取り組みます。

主人公をはじめとし、

政府やその関係者の奮闘する様子こそが、

この物語の最大の魅力ではないでしょうか。

かといって、男くさい物語になっているわけでもなく、

読みやすいストーリーになるように

バランスを上手くとっています。

世界的パンデミックという特殊な状況下だからこそ

生まれるドラマチックな展開は必見です。

 

 

 

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『首都感染』のリアリティ

 

10年前に書かれたというのが信じられないほど、

この作品はリアリティに溢れています。

「予言書」と呼ばれ、

報道されるのもうなずけるほどです。

例えば新型インフルエンザの発生。

中国から感染が広がったこのウイルスですが、

その詳細を当初中国政府が隠蔽したことは、

武漢で感染が大きく拡大するまでその存在を隠していた、

実際の中国政府に重なります。

そして何よりも「東京封鎖」は、

武漢やパリ、ニューヨークといった都市で行われた

「都市封鎖」まさにそのものです。

「ロックダウン」という名称でも呼ばれ、

連日ニュースやワイドショーをにぎわせた都市封鎖を、

この作品は見事に「予言」しているのです。

この作品のリアリティはそれだけにとどまりません。

新型インフルエンザの拡大に伴う人々の混乱や、

それと戦う人々の心情、

そういったものも見事に描き切っているのです。

ニュースでコロナウイルスに関する報道を見ていても、

クローズアップした人々の心情は

あまり伝わってこないかもしれません。

しかしこの作品は、

そういったともすれば忘れがちな感染拡大の側面を、

私たちに思い出させてくれます。

まるで新型コロナウイルスの感染拡大を

実際に目にしてから書いたかのようにも

思えてしまう作品です。

 

 

 

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