今回ご紹介する一冊は、
相沢沙呼(あいざわさこ) 著
『小説の神様』です。
作者の相沢沙呼さんは、
とても丁寧な文章と繊細な心理描写が
魅力的な若手の男性作家さんです。
推理小説や青春モノ、ライトノベルなど、
活躍のジャンルは多岐にわたります。
『小説の神様』は、
偶然クラスメイトになった現役高校生作家の2人、
千谷一也(ちたにいちや)と小余綾詩凪(こゆるぎしいな)が、
共同作業で1つの小説をつくりあげていく
青春ストーリーです。
小説を作り上げる過程での
2人の小説に対する想いや、
それぞれが抱える苦しみが描かれており、
そこから作者自身の小説に込める想いも
感じ取ることのできる作品です。
映画版『小説の神様』が、
佐藤大樹(EXILE/FANTASTICS)&橋本環奈のW主演で
近日公開されるとのことです。
人気のお二人が演じると、
キラキラ感が凄まじいことになっていますね。
目次
地味で目立たない一也と才色兼備で人気者の詩凪
小説は、好きですか――?
いつか誰かが泣かないですむように、今は君のために物語を綴ろう。
僕は小説の主人公になり得ない人間だ。学生で作家デビューしたものの、発表した作品は酷評され売り上げも振るわない……。
物語を紡ぐ意味を見失った僕の前に現れた、同い年の人気作家・小余綾詩凪。二人で小説を合作するうち、僕は彼女の秘密に気がつく。彼女の言う“小説の神様”とは? そして合作の行方は? 書くことでしか進めない、不器用な僕たちの先の見えない青春!
日陰と陽向。
対照的で、小説にかける想いもまるで異なる
2人の小説は、
果たして完成するのか?
やがて見えてくる、それぞれの抱える闇とは?
厳しい現実の中で揺れ動く、
若き小説家たちの姿に、胸が熱くなる物語です!
日陰の中の青春
中学2年にして小説家デビューを果たした一也は、
小説家として生きてきた父の影響で、
本に囲まれて育ちました。
唯一の誇れるものだった小説。
しかし、デビューから3年が経過しても
本の売り上げが伸びず、
評価を得られない自分に、
猛烈な劣等感を抱くようになります。
「自分はからっぽの人間だ」
「売れない本に価値は無い」
思うように小説が書けない。
光を見出せない日々に、
一也の心は闇で覆われていきます。
抜け出せない負のループの中、
苦しみ、自問自答し、小説に振り回される一也。
その心情はときに脆く、
ときに荒々しく描かれており、
読み手にも一也の痛みがひしひしと伝わってきます。
そこに現れた転校生の詩凪。
彼女は一也にとって、小説の主人公にふさわしい、
陽向を生きる人間でした。
彼女は言いました。
「私には小説の神様が見える」
小説の持つ力を信じる詩凪と、
小説に人の心を動かす力など無いと言い張る一也。
2人の共同制作は、決して一筋縄ではいきません。
詩凪に嫉妬している一也は、
そんな自分にも苛立ち、
感情をコントロールできずに苦しんでいます。
そんな一也の劣等感は、誰にとっても、
共感できてしまう部分があるのではないかと思います。
美しい言葉たちが彩る世界
作品を通して感じたのは、
この小説は、とても美しい小説だということです。
物語はすべて一也の視点から描かれています。
日常生活での些細なことを敏感に感じ取り、
心の中で思考を巡らせる一也。
彼が心の中で生み出す言葉は、
たとえ劣等感に溢れていても、
一つ一つがとても美しく、
キラキラとしています。
比喩表現が豊富で、
読みごたえたっぷりのギュッと密な文章が、
作品全体を通して大きな魅力となっています。
男性の作家さんが書いた作品で、
これほど繊細な表現が盛り込まれている作品は、
今まで読んだことがありませんでした。
私は終始、作者と一也の心を重ねて
読み続けていました。
一番好きな場面は、
一也がパソコンのキーボードを叩く隣で詩凪が見守り、
2人で小説を作り上げていくシーンです。
心の動くまま勢いよく小説を書き進める様子は、
とても躍動感があり、
ピアノの連弾を見ているような気持ちになりました。
小説を書くことは苦しいけれど、
大きな喜びを得る瞬間もあるのだと、
感じさせてくれるシーンでした。
小説の神様とは何か
「あなたはなぜ小説を書くの?」
「君はなぜ小説を書くんだ?」
物語の中で一也と詩凪の間で何度も
交わされる問いかけがあります。
高校生にしては会話の中に現れる言葉も
大人びている2人ですが、
心はまだ不安定な高校生です。
激しい感情のぶつかり合いが
繰り広げられる部分もあります。
現実世界で充実している詩凪が
なぜ小説を書くのか?
小説に力が無いと言う一也は
なぜ小説を書くのか?
苦しくても書くことをやめられない
小説家たちの葛藤を、
物語の中から山ほど感じ取ることができます。
文字だけで表現する難しさと、
文字だけだからこそ表現できる素晴らしさ。
小説が大好きで、
小説こそ最高のエンターテインメントだ!と
思う方にはたまらない物語だと思います。
小説を書くことは、
きっと自分自身と向き合わなければならない
苦しい作業でもあるのでしょう。
苦しみながら一也と詩凪が見つけ出した答えに、
日頃、私の心の中にひっかかっている何かが、
ほどけていくような感覚になりました。
2人の紡ぐ物語は、
どんな姿となって読者の前に現れるのでしょうか。
『小説の神様』とは何か?
読者それぞれの答えを見つけながら、
大切に読んでいただきたい1冊です。
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