川越宗一『熱源』【第162回直木賞】あらすじと書評!「差別」を描く熱意とリアリティは必要不可欠

 

今回ご紹介する一冊は、

川越宗一(かわごえそういち)

『熱源』

です。

 

『熱源』は川越宗一によって

書かれた長編小説で、

2020年に

第162回直木賞を受賞した作品です。

川越宗一は他に『天地に燦たり』

で松本清張賞を受賞したこと

でも知られています。

この作品はアイヌ民族を題材とした歴史小説で、

作中でえがかれているのは明治から太平洋戦争

の終戦までの、

とても長い期間です。

先に紹介した『天地に燦たり』は

日本、朝鮮半島、琉球(現在の沖縄)と、

三つの視点から描かれているのが特徴ですが、

この作品も様々な人物の視点から描かれており、

一つの出来事を多面的に捉えさせてくれます。

『前代未聞の傑作巨編』という言葉で絶賛される通り、

題材も描き方も、他では類を見ないような

一風変わったものです。

きっとこれまでに味わったことのないような、

不思議な感情に包まれるのではないでしょうか。

歴史が好きな人もそうでない人も

楽しんでいただける作品です。

 

 

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川越宗一『熱源』のあらすじ

 

【第162回 直木賞受賞作】
降りかかる理不尽は「文明」を名乗っていた。
樺太アイヌの闘いと冒険を描く前代未聞の傑作!

樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。
開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。

一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。
ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。

日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。

金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。

 

主人公は樺太(サハリン)で生まれた

アイヌ民族のヤヨマネクフです。

時代は明治時代、日本とロシアの関係は

とても複雑であり、

二国のちょうど間にある樺太も

激動の中にありました。

ヤヨマネクフを初めとした

樺太出身のアイヌたちは、

集団移住を強いられたことで

北海道へと移住します。

しかし、当時の日本には

アイヌ民族に対する根強い差別があり、

彼らは不遇な日々を送ることを

強いられてしまうのです。

一方、リトアニア人である

ブロニスワフ・ピウスツキは、

ロシア帝国に祖国を支配され、

母語であるポーランド語を話すことさえ

認められませんでした。

参加した組織の皇帝暗殺計画の発覚により、

彼は流刑に処され、樺太へと送られます。

樺太で出会ったヤヨマネクフとピウスツキは、

互いに影響を与え合い、

やがて自らが守るべきものが何か、

その真理にたどりつくのです。

 

 

 

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川越宗一『熱源』の魅力

 

フィクションでありながら、

まるでドキュメンタリー小説を読んでいるか

のように感じるほどの

リアリティがこの作品にはあふれています。

それもそのはず、

この作品は何と20を超える文献や、

複数の取材協力のもとに書かれた作品なのです。

しかし、それでいてストーリーは

小説としてしっかりと面白く、

現に直木賞を受賞するほどです。

それこそが、『熱源』の最大の魅力と

言っても過言ではないでしょう。

ただ、この作品の魅力はそれだけにとどまりません。

何よりも、登場人物たちが互いに関わり会う中で、

新たな発見をし、心情が移り変わっていく様子には

心地のいいものがありますし、

私たちにも様々なインスピレーション

を与えてくれます。

アイヌ民族を初めとした、

普段私たちには馴染みの薄い題材を扱っていながら、

現代社会を生きていくうえで

必要不可欠な示唆に富んだ作品です。

 

 

 

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川越宗一『熱源』が描くアイヌの文化

 

先に述べたとおり、

この作品は数多くの書籍や論文を

参考にして書かれています。

その文献調査は時代考証や事実確認だけ

にはとどまりません。

作中ではアイヌの文化や樺太の過酷な風土が、

軽妙な筆致で描かれており、

読んでいて情景が目に浮かぶようでした。

さらに、アイヌの文化の描写が

作品にとってスパイスとなり、

作品に説得力を持たせているのです。

作者の熱意が伝わってくるような作品です。

 

 

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川越宗一『熱源』の描く社会問題

 

この作品が描くのは「差別」という

複雑で難しい問題です。

作中ではかつての大日本帝国による

アイヌ民族への差別や支配、

ロシア帝国による同化政策などが描かれています。

確かに、今あげたような大規模でわかりやすい差別は、

現代社会においては少なくなっていますが、

それでも少なからず存在しているのは事実です。

例えばミャンマーにおけるロヒンギャの迫害問題

アメリカを初めとした地域における黒人差別

などが挙げられます。

『熱源』は、そうした「差別」に対して、

私たちに様々なことを教え、

そして考えさせます。

現代を生きていくからこそ、

ぜひとも読んでいただきたい歴史小説です。

 

 

 

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