今回ご紹介する一冊は、
伊坂幸太郎 著
『重力ピエロ』です。
『オーデュボンの祈り』
『ラッシュライフ』に続く、
伊坂作品の第三作目。
伊坂幸太郎の作品が、
広く一般に読まれることに
なったきっかけの本
でもあります。
散りばめられた多くの伏線。
他の作品とのつながり。
この2つを是非楽しんで
欲しいですね。
もちろん、
他の作品を読まずとも
『重力ピエロ』単体でも
存分に楽しめますよ。
『重力ピエロ』は、
遺伝子と家族の絆をテーマ
にした小説です。
深刻になりがちな
テーマであっても、
どこか爽快な雰囲気を
醸し出してくれる文体は、
他の小説には見られない
伊坂作品独特の温かさ
がありますね。
それでは、
紹介していきたいと思います。
目次
伊坂幸太郎『重力ピエロ』春と泉水と、あらすじと。
兄は泉水、二つ下の弟は春、優しい父、美しい母。家族には、過去に辛い出来事があった。その記憶を抱えて兄弟が大人になった頃、事件は始まる。連続放火と、火事を予見するような謎のグラフィティアートの出現。そしてそのグラフィティアートと遺伝子のルールの奇妙なリンク。謎解きに乗り出した兄が遂に直面する圧倒的な真実とは――。溢れくる未知の感動、小説の奇跡が今ここに。
「春が、2階から落ちてきた」。
何ともお洒落な、
『重力ピエロ』の
冒頭の一文です。
春とは、
季節の春ではなく、
人の名前。
この物語は、
泉水(いずみ)と春
という2人の兄弟が核となり
話が展開していきます。
どちらも「Spring」という
英単語の日本語訳ですね。
兄弟と言っても、
春の出生には特殊な事情
がありました。
2人の母親は、
泉水が赤ん坊のころ、
レイプの被害に
あってしまいます。
そして、産まれたのが春。
つまり、遺伝的な意味での
春の父親は、そのレイプ犯
という事になります。
泉水はジーン・コーポレーション
という遺伝子を扱う会社に、
春は市内に書かれる
グラフティアートを消す事を
職業としていました。
伊坂作品と言えば、
舞台は仙台。
この作品も例外ではありません。
その仙台で、
連続放火事件が発生します。
そのすぐ近くには、
グラフティアートが
書かれているというルールを
春が見つけます。
2人は放火とグラフティアート、
更にそこには遺伝子が
関係しているという事を
解明していき、
更なる真相に
迫っていくのでした。
伊坂幸太郎『重力ピエロ』本当の家族愛を知る一冊
この本を読んで最も感じるのが、
泉水、春、父、母、この4人の
家族の関係性ですね。
上述のように、
父と春の関係は本当の親子
ではありません。
春は、レイプ犯の子です。
非常に、深刻なことですね。
「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」
この作品で、
一番印象に残る言葉
ではないかと思います。
母のレイプ被害、
それで生まれた春、
更にガンに冒された父。
どれも深刻です。
それでも、春は言うのです。
「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」
様々な経験をしてきた
彼ら家族4人。
明るく前向きに
生きていけば、
どんなことも乗り越えられる
という彼らの絆が
垣間見える一言ですね。
春と父親は遺伝子的には
全くつながっていない
かもしれない。
だけど、そんなことは
乗り越えられるのです。
まるで、
サーカスのピエロが
重力をもろともしないように、
です。
『重力』『ピエロ』という、
何のつながりもない
この2つの単語が
なぜこの小説のタイトルに
なっているのか。
読後、遺伝子も何もかも
もろともしない、
明るく前向きな家族の姿が、
そのタイトルからは
想像が出来ます。
伊坂幸太郎『重力ピエロ』多くの伏線と、他作品とのつながり
初期の伊坂作品を
久しぶりに楽しみました。
やはり散りばめられた
多くの伏線の回収と、
他作品とのつながりが
一番の楽しみですね。
やはり伊坂作品には
無駄がない。
どんな些細な表現も、
いずれ意味を持ってくる。
伏線の回収は他の小説でも
よくあることですが、
他作品とのリンクは
伊坂作品ならでは
だと思います。
『重力ピエロ』以前に出ているのは
『オーデュボンの祈り』と
『ラッシュライフ』です。
もし出来れば、
この2つを読んでから
『重力ピエロ』を読む方が
更に楽しめるでしょう。
伊坂作品は、
出版順に読むのが吉ですね。
『重力ピエロ』では、
黒澤という探偵が
登場するのですが、
彼は『ラッシュライフ』でも
泥棒と探偵を生業として
登場しますね。
探偵として泉水と父に
関りを持ってきます。
更に、伊藤と名乗る、
未来を予言する
案山子に関して
言及する人物も。
彼は、
『オーデュボンの祈り』で
登場します。
黒澤と伊藤に関しては、
2作品を読んだことがあれば
すぐに気づくと思います。
2人とも、『重力ピエロ』の
物語の中で最重要
という位置づけ
ではありませんが、
どこか空気をユーモラスに
してくれるいい味付け
になっています。
家族、遺伝子がテーマで
あるからと言って、
決して身構えて読む
必要はありません。
陽気に深刻なテーマに
立ち向かう家族と
登場人物が、
そんな重い空気を
取っ払ってくれます。
この記事を読んだ方はこちらもオススメです↓